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秘書はメール一本ですぐにそれらの資料が送られてくることを知っていたが、知らないふりをして出ていった。誰から見ても署長は彼女を追い出したがっていたからだ。
「失礼します」
扉が二度ノックされたのち、ダニエル警部補が入ってきた。
「ああ、ご苦労。マスコミが随分と騒いでるようだが、ウェスリー・フォードは君の部下だったね?」
ダニエル警部補は慌てなかった。
「ええ、確かに所属の上では私の部下ですが、実際のところ彼は誰の部下でもありません。例えで言ってるんじゃありません。彼は本当に誰の言うことも聞かないのです」
「そうだろうね。私も君を責めてはいない。実際、ウェスリー君は今に誰の部下でもなくなるだろう」
署長は今すぐにでもそれを行うことができた。
「ええ、ですがバッジを奪おうにも、始末書を書かせようにも、奴がどこにいるか全く分からない有様でして」
「分からないということはないだろう。警察車両は全て位置が分かるようにできている」
「私たちも調べたんですが、彼は地下倉庫街に入った後、車を乗り換えておりまして」
「情報管理局に問い合わせれば、街中の監視カメラの映像が使えるはずだが」
「彼らは警察に情報を提供することを渋っております」
「渋っておろうと、こちらが請求すれば情報管理局はそれを提出する義務があるはずだ」
署長は語気を強めた。
「情報を請求するには莫大な手続きが必要です。刑事事件でもない限りそれをすっ飛ばすことはできません」
「そうだろう。あそこはそういうところだ。それで、その手続き自体は進めているんだろうね?」
「さきほど部下に指示したところですが」
ダニエル警部補はいましがたそれらの命令をレック巡査に下したところだった。
ところが、レックは上司の目を盗んでは、デスクの端末から売春宿のウェブサイトを閲覧する癖があった。
レックはダニエル警部補がオフィスから出た後、すぐにクラブ・ロリータのウェブサイトを開き、娼婦のプロフィールを点検した。
そして、見慣れたリストの中に新人の名があることに気がついた。その女は不健康なクマを光で飛ばし、物欲しげに両手で乳房を寄せていた。娼婦は網タイツを履いた足を折って座っていた。目の粗い網タイツが皮膚に食い込んでいるのを見て、レックはごくりとつばを飲んだ。
ダニエル警部補の見立て以上にそれらの作業は時間がかかるだろう。
「うむ。ところでダニエル君、君には組織の代表としてマスコミの対応をしてもらいたいと思ってるんだが」
「そんな、私は記者会見など……」
ダニエルは慌てて手を振った。多くの先輩たちが記者の対応でボロをだし、不当なリンチにあう姿を見てきたからだ。
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