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ある者は記者の恨みを買ってプライベートをつけ狙われ、スキャンダルを暴露されてしまった。またある者は嫌味な質問に激昂し、醜態を全国に曝した。記者会見に出たものが得をしたという話は一度も聞いたことがなかった。
「いやいや、君には適性がある。原稿はこっちで作らせてもらうし、何より不祥事を起こした男は明確なんだ。全ての責任は奴にあるんだから、君は過去の職権乱用を説明し、彼が以前からの問題を抱えていたことを説明すればいい。君が落ち着いて対応する限り、君が損をすることは無いだろう」
「しかし、私はどうもマスコミというものが苦手で……」
「あんなもんは誰だって嫌いだ。自分たちだって裏で誰かと繋がっているのに、人の癒着には目聡いし、嘘をばら撒いておいて、大衆を味方につけた気でいる。だが、粗末にはできない。そうだろう?」
「ええ、おっしゃる通りですが……」
「とにかく会見までには原稿を作っておくから、君はそれに沿って受け答えをすればいいんだ。頼むよ」
署長は断る隙を与えないよう、ダニエル警部補の肩を強く叩いた。ダニエル警部補は渋々頷き、署長のオフィスを後にした。
記者会見の準備は迅速な速さで進められた。その間、ダニエル警部補はマスコミがどの程度の情報を掴んでいるのかチェックするべく、端末を操作し、空中にニュースを映し出した。
「えー、先ほど未来創造地区二番街で自動車七台が損壊する大規模な事故が起こりました。目撃者の証言によると、暴走する二台の車を避けようと、トレーラーが対向車線に入り、自家用車と正面衝突したようです。またある筋の情報によりますと、昨晩、強姦魔を無警告に発砲した警察官が今回の事件に関与しているようです。その警官は昨晩ジャック・ランド記念病院から新生児を誘拐したという話もあります。発砲事件、誘拐、交通事故。これら三つがどのように関わりあっているのかは、未だに分かっておりません。警察側は二時から記者会見を予定しており、そこでの発表が待たれるところです」
ダニエル警部補は胃が痛むのを感じた。
マスコミが警察以上の情報を得ていることは、それほど珍しいことではなかった。科学捜査や、大掛かりな聞き込みはできないものの、彼らには情報管理局という強い味方がいた。
情報管理局は州をまたいで国が管理しているため、この未来創造地区で唯一、ジェネシスバック社の管轄外に置かれていた。そのため公共設備の委任権を買い占めたジェネシスバック社も、情報管理局には手を出せないでいる。
本来、マスコミと情報管理局が手を組むことはあり得ないのだが。このエリアでは国とジェネシスバック社とマスコミが奇妙な三つ巴をなしている。情報管理局とマスコミの癒着は未来創造地区独特のものだった。
ダニエル警部補は他所行きのスーツに着替えると、署長の秘書を連れて会場に向かった。原稿はまだできていないようだったが、記者会見までには渡されるそうだ。
ダニエル警部補は誰が原稿を書いているのか見当がつかなかった。ジャック・ランド記念病院で起こった不法侵入を含む誘拐未遂事件は刑事局が担当することになっている。刑事局が最新の見解から原稿を作るのだろうか。
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