一章

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 マシンガンの弾が勢いよく銃口を通り抜ける音、空気を切る音、それが壁にあたり、コンクリートが崩れる音。  音に驚いた猿たちが、狂ったように一斉に鳴きはじめる。甲高い悲鳴が鼓膜に突き刺さり、頭にまで響く。  男は泣きながら拳銃を握りしめ、姿勢を低くしていた。 「おい、どうなってるんだよ」 「俺にも分からねえよ!! クソ、クソ、クソッ」  男は腕を伸ばして、カウンターから拳銃を覗かせると、出鱈目に発砲した。  電話の主は咄嗟に柱の陰に隠れる。 「裏口は?」 「倉庫の右手からなら外に出れるけど」  倉庫に行くための扉はカウンターの左にあり、一度射線に入る必要があった。 「分かった。俺が行けと言ったら、その猿を抱いて全速力で走れ。表に車をとめてあるから、それを裏口に回してくれ。良いな?」  男はパトスが良いとも言わないうちに、車の鍵を握らせた。それから弾倉を入れ替えて、柔らかく拳銃を握り直した。 「ちょっと、そんなことできるわけないだろ!!」  パトスは唾を飛ばしながら男に抗議したが、男はパトスの言葉など聞こえないようだった。 「行くぞ。三、二、一、走れ!!」  パトスが走り出すのと同時に男が出鱈目に銃を撃つのが見えた。パトスは無我夢中で廊下を走った。倉庫に近づくにつれて猿の喚き声が近くなっていく。 倉庫では猿が檻を揺らし、飛び跳ね、小さな檻の中を逃げ惑っていた。気の毒に思ったが、構っている余裕はなかった。  パトスは裏口から外にると、裏路地を抜けて、店の前に回った。  男の言う通り、黒い車がほとんど歩道を遮るようにして止めてあった。それを見た途端、パトスは男の正体を察した。いまどき珍しいガソリン車だったからだ。  パトスは車に乗り込むと、エンジンをかけ、車を右折させて、裏路地に入った。車一台がなんとか入りきり、運転次第では、車体の側面を傷つけてしまうような細い路地だった。  パトスは裏路地に車をとめ、男を待った。車を裏手まで回す義理も、こうして男が来るのを待つ義理もなかったが、パトスには反抗するという選択肢がなかった。  毛を駆られたボノボはパトスの首にしがみついて不安げな鳴き声をあげている。パトスは掴んでいた袋から、サルのための洋服を取り出し、それをボノボに着せてやった。  マシンガンの音はもう聞こえなかった。男が倉庫にたどり着けたのか、被弾し動けなくなったのかはわからなかったが、パトスは我慢強くとても長く感じる一瞬一瞬をやり過ごした。  パトスは裏口の扉をじっと見つめた。それしかできることがなかったし、それしかこの恐ろしい状況下で待つという行為を続ける術がなかったのだ。どちらが敵かわからないまでも、一方的にマシンガンを連射する男よりかは、乱暴で粗野な男のほうが話になると思ったのだ。  パトスはほとんどすがるようにして扉を見つめていた。そして、それにこたえるかのように扉は勢いよく開いた。             
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