妄想力

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 彼女は一体誰と結婚するのだろうか。  ポストの中に見つけた結婚式の招待状を見つけて、送り主である彼女への思いを募らせていた学生時代を思い出しながら、そんなことを考えていた。  彼女は学校のアイドルで、僕みたいな何の取り柄もないような人間とは天と地ほどの差がある存在だった。それでもその美しい容姿と親しげな笑みを見て、僕のように叶わぬ夢を抱いた男子生徒は多くいたはずだ。  そんな彼女も結婚か。やはり彼女を射止めるだけの男なのだから、まず間違いなく金を持っているだろう。それに彼女と並び立つ男なのだから、さぞ容姿端麗なのだろう。いい大学を出て、何ら留学なんかもしちゃって、3ヶ国語ぐらいなら簡単に操ってしまうのだろう。スポーツだって万能なはずだ。厳しい運動部の中心メンバーとして、さぞ輝かしい汗を流していたことだろう。  駄目だ、想像すればする程劣等感に襲われる。全く知らない人間のはずなのに、彼女と結婚をする男という肩書きだけで自分と正反対の男の姿を勝手に描き出してしまう。  ・・・待てよ、僕は今勝手に自分とは正反対の、何をやっても上手くいく色男を彼女の隣に据えていたが、もしそうでないなら?  まるでモデルのような背丈とルックス、抜群の運動能力、極めて優秀な学業成績、そして余りある金。これらを持ち合わせている男が彼女をものにしたのなら、正直諦めもつく。いい大人であるはずの僕が未だに高校時代のアイドルを諦めていないのかという指摘は置いておくにせよ、自分と正反対の男ともなれば、やはり彼女は別世界の住人であったと今度こそ区切りをつけることが出来る。  だがそうでないなら?彼女の結婚相手が、別に特別容姿端麗な訳でもなく、学生時代を文化部もしくは帰宅部で過ごし、学歴もそこそこ、稼ぎもそこそこな男と結婚をするならどうだ?もしそんな僕みたいな男を彼女が選んだとするなら、そっちの方が問題ではないだろうか。  つまり彼女は、外見や肩書きではなく、中身で男を選ぶ人であったとするなら、数値化出来る男としての価値が軒並み平均点以下の僕が唯一希望を持っていた、人間性、という限りなく抽象的な概念ですら、僕には備わっていないことを意味する。  彼女が身をもって外見ではなく中身で男を選ぶ女性の存在を証明してしまえば、僕は外見でも中身でも女性に選ばれない最低最悪のダメンズの名を手に入れてしまうではないか!  はあ・・・何だか彼女の夫を想像していたはずなのに、底なしの自己嫌悪に陥ってしまった。こんなことをしている暇があるなら、結婚式に着ていく服装の準備でもするか。正直こちらが勝手に好きになっただけで、実際はほとんど接点がなかった彼女の結婚式に出席するかどうかは迷う所だが、折角ほとんど接点がなかった僕に招待状を送ってくれた訳だし、出席するのが・・・  あれ、なんで彼女は僕に招待状を送って来たんだ?よく考えてみれば、彼女のような学園の中心人物がずっと日陰にいた僕の存在を覚えているとは思えない。にも関わらず、彼女は僕に結婚式の招待状を送って来た。これが意味することはなんだ?  もしかして彼女は、僕に特別な感情を抱いていて、この結婚を阻止してもらうために招待状を送って来たのではないか・・・なんて妄想を膨らませる程僕はおめでたい人間ではない。冷静に考えて、卒業アルバムを開いて片っ端から招待状を送っている可能性が高い。では何でそんなことをする必要があるのか。  もちろん、本当の理由なんて僕にはわからない。これが彼女の判断なのか、それとも彼女の夫となる人物の判断なのかも、僕には知る由が無い。  だが僕の妄想力で導き出した結論が合っているとするならば、僕が取るべき行動はこうだ。  僕は手に持っていた結婚式の招待状を、その場でびりびりに破り、上に向かって思いっ切り投げた。  僕に招待状を送った理由は単純明快、結婚式の規模を大きくしたいからだろう。夫が見栄っ張りなのか、それとも彼女が派手好きなのか、その辺りはよくわからないが、顔も名前もろくに覚えていない人間を結婚式に招待しなければならない程、列席者を増やして規模を拡大する必要があるのだろう。だとするなら、僕は結婚式へ出席をせず、微力であっても2人を困らせるというのが、唯一の反撃であろう。  外見も中身もない僕が、外見や中身のある連中に一矢報いる。ささやかでも、己の器の小ささを指摘されようとも、この選択に後悔はない。  上から降ってくる結婚式の招待状だった紙切れが、僕を祝福する紙吹雪のように感じられた。
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