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「俺の用事、当てられたら解放してあげる」
「なんで上から目線よ」
「ヒント其の一。今日は誰かの誕生日」
「え、私だけど」
一体何の茶番だ。心の内で唱えながら、「正解」と微笑む彼の吐息に肩を揺らした。
「ヒント其の二。俺はいま何歳でしょう」
「……十六だっけ?」
「惜しいね。十七だ」
おしおき、とでも言いたげな様子で、繋がれた手が締め付けられる。しかし痛みを感じないのは、霞なりに加減をしているからだろうか。
ゲームでも、クイズでも、スポーツでも。昔から加減をしていたのは、私の方だったはずなのに。
「ヒント其の三——つまり俺は、来月十八になるわけだ」
「え?うん、そうだね」
「まじで覚えてないんだ。サイテー」
「はぁ?」
ベーッ、と出された舌に思わず凄む。
最低だなんて言われる筋合い、どこにあるのよ。そう放とうとした瞬間、憎たらしいほどきれいな顔面が近づく。
たとえ最後のキスが数年前でも、さすがにまだ鈍っていない。ギュッと目を瞑ってしまったのは、それを予感したからだ。……しかし、
「キスされると思った?」
降りかかったのは唇ではなく、乾いた霞の吐息。
「少しは思い出した?忘れん坊の茅乃サン」
「か、すみ……あんたねぇ、」
至近距離のまま睨みあげると、霞は嫌らしい笑みを止ませて言った。
「『十七になってもまだ、年食った私を好きだって言えるなら。少しは考えてあげるよ』」
それって──、
一言一句違わずなぞられた台詞に、茅乃は鳥肌を立てる。彼は覚えていたのだ。健気にも、五年以上も前から。
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