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────……
「で。昨日はあんな遅くまで学校だったわけ?」
「違うよ、日曜だし。ただの予備校」
「予備校って制服で行くもんだっけ」
「いや、そうでもないけど」
じゃあ、なんであんたは制服だったのさ。
柔らかい朝日に照らされながら、最寄り駅までの一本道で、茅乃は隣を垣間見る。
相変わらず頭は痛いし、記憶もうっすらではあるけれど、どうやら現実らしい。やたらと発育の良い幼なじみにくるまって迎えた朝は、二日酔いを悪化させた。おかげで、腰に回った彼の腕を捻り上げてしまった次第だ。
ただ、ほうれん草と油揚げの入った霞の味噌汁は、胸やけをいとも簡単に抑えてしまって。あく抜きなんていつ覚えたんだか……と、覗き見ていた手際を思い出し、茅乃は眉を寄せた。
「電車、同じなんだっけ」
「うん。俺の学校も茅ちゃんの実家も、普通に近いよね」
だって一人暮らしを始めたのは、単に自立のためだから。心の内で付け足しながら、左隣の体温を見上げる。
着崩しを知らない制服はもうすぐ三年目を迎えるというのに、まだキラキラと輝きを放っていた。眩しかった。俺の学校、というフレーズひとつをとっても。
「……」
やっぱり、昨日のことは忘れよう。茅乃はヒールで地面を叩きながら、ギュッと拳を握りしめた。
夢も叶えず、劇的な恋もせず、平々凡々な毎日を過ごしてきた自分には、こんな展開受け入れられない。それに、霞にはまだ年相応の恋が必要なんだ。私じゃあ……きっと、重すぎる。
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