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「ぅ……っ!?」
すると霞は、器用にも片手で両頬を挟んで距離を縮める。昨夜が思い出されるほど、近くまで。
「無理して笑うの、なしだから」
にやり。真剣な顔をしたと思ったら、急に持ち上がる口角。そして、惜しげもなく離される頬。気づいた時、彼はすでに列車の前で手招きをしていた。
「早くおいでよ、茅ちゃん」
「~~っ、」
行き場を失くした感情を堪え、扉が閉まる寸前にどうにか二号車へ乗り込む。数メートルも走っていないのに息が切れたのは、この男のせいに違いない。
「よかったよ、間に合って」
彼は無情に閉まる扉の前で、焦燥に駆られたOLを軽々抱き留めた。
「どの口が言うのよ……てゆーか、無理してなんて……」
すぐにその体温を払おうとするも、密度の高い箱の中では叶わない。おかげで、えんじのネクタイが目の前に映り込む次第。今朝の味噌汁の匂いとともに、甘酸っぱい香りが再び心を抉った。
「してるよ、無理」
「どこが……だって、私の歳考えたら普通に、」
「二日酔い、本当はきついんでしょ」
──は?
瞬きが早くなる。首を傾げた茅乃を見下ろしながら、霞は喉を鳴らした。
「あれ……それとも違う無理してた?」
カァァァッ。みるみるうちに上がる体温。なんだか本当に、頭痛がひどくなる予感がした。
「……ばか」
「誤魔化しかた、本当変わんないよね」
伏せた視線を覗き込む霞。周りを気にしているのか、囁くような少し掠れた声に耳元が火照った。
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