〔1〕Can't remember It.

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 ずるいような気がする。自分は成長期だからって、変わりすぎだバカ。  内側で呟いた後、妙な衝動に駆られた。図らずとも降りてきた襟足を触りたいという衝動。そういえば、昨日の夜——。 「霞だって、そんなに変わってないし」 「……え」  むくれながら言うと、覗き込まれた瞳が目の前で丸くなる。襟足に触れたからだ、と悟ったのは、彼の首がほんのり染まった後だった。  ……え。なによ、その反応。 「もしかして、照れ……」  照れてるの?  勝気に放とうとして、しかし直後に呑み込んだ。先程までこちらを見ていたはずの視線が、ほんの一瞬逸れたからだ。そして、何から隠れるように霞が顔を伏せたからだ。 「……霞?」  呼びかけると、彼は笑った。「ん?」と小首を傾げながら目を細めた。……自然に出来ているつもりなのだろうが、全くだ。 「どうしたの。急に作り笑い」 「目敏いな」  あれ、意外にも素直。霞は扉横の手すりに背をもたれながら、頬のあたりを指でなぞった。心なし、顔色も少し悪い。茅乃はほんのり汗を浮かべる彼の額に、ハンカチをそっと当てる。 「体調、悪いの?」 「え、ちょ……」  ヒールを履いていても背伸びが必要な差。足元をグラつかせながら、無意識に彼の肩を借りていた。だから——、 「近……」 「え?」  昨日とは形勢逆転。視線の先では、呆けた顔の霞が耳を赤くしていた。……ああ、やっぱり。さっきのも、気のせいじゃなかったんだ。
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