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ずるいような気がする。自分は成長期だからって、変わりすぎだバカ。
内側で呟いた後、妙な衝動に駆られた。図らずとも降りてきた襟足を触りたいという衝動。そういえば、昨日の夜——。
「霞だって、そんなに変わってないし」
「……え」
むくれながら言うと、覗き込まれた瞳が目の前で丸くなる。襟足に触れたからだ、と悟ったのは、彼の首がほんのり染まった後だった。
……え。なによ、その反応。
「もしかして、照れ……」
照れてるの?
勝気に放とうとして、しかし直後に呑み込んだ。先程までこちらを見ていたはずの視線が、ほんの一瞬逸れたからだ。そして、何から隠れるように霞が顔を伏せたからだ。
「……霞?」
呼びかけると、彼は笑った。「ん?」と小首を傾げながら目を細めた。……自然に出来ているつもりなのだろうが、全くだ。
「どうしたの。急に作り笑い」
「目敏いな」
あれ、意外にも素直。霞は扉横の手すりに背をもたれながら、頬のあたりを指でなぞった。心なし、顔色も少し悪い。茅乃はほんのり汗を浮かべる彼の額に、ハンカチをそっと当てる。
「体調、悪いの?」
「え、ちょ……」
ヒールを履いていても背伸びが必要な差。足元をグラつかせながら、無意識に彼の肩を借りていた。だから——、
「近……」
「え?」
昨日とは形勢逆転。視線の先では、呆けた顔の霞が耳を赤くしていた。……ああ、やっぱり。さっきのも、気のせいじゃなかったんだ。
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