〔1〕Can't remember It.

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 思わず漏れる笑み。このときばかりは、周りの視線を気にする思考よりも、優越感の方が勝っていた。電車の揺れで時折触れる肌は、見た目以上にハリが良くて少しムカつくけれど。 「で、どうしたの。もしかして、本当に体調悪い?」  愉しむのはこれくらいに、と茅乃は手を引っ込める。血色は取り戻したものの、まだ顔を伏せている彼に首を傾げ尋ねた。 「……向こうにさ」 「ん?」 「向こうに、先週告白してくれた子がいるんだよ」 「……こっ、?!」  ばつが悪そうに苦笑する霞。言われてみると、制服姿の乗客がチラホラ増えてきた。視線の先を辿り「どれどれ」と探ると、彼は無理やり視界を塞いだ。 「探るの禁止」  と、大きな手で目のあたりを覆う。茅乃はすぐにその手を払い、彼を睨みあげた。 「ちょっ、と。メイク落ちるからやめて」 「すっぴんも可愛いのに」  霞は手の甲で口を覆いながら息を漏らす。からかう元気が出てきたあたり、もう平気そうだ。  でも、なんとなく——顔を伏せていた理由は別にあるような気がして、もう一度こっそり振り向いた。 「……」  スーツとヒールと、ときどきブレザーが入り混じる統一感のない空間。満員ではなくとも、足のやり場は限られていて窮屈で、だからこそ女子高生は確かに目を引く。彼女たちの周りだけは、主にスーツを纏ったサラリーマンたちの気遣いが垣間見えていた。  しかし霞が気に掛けていたのは、その気遣いの方面ではなかった……様な気がしてならない。 「茅ちゃん。もしかして気にしてる?」 「え?」 「俺が告られた、って話」  ……気のせいか。本人が言ってるんだし。  茅乃は盛大に首を振った後、颯爽と駅へ降り立った。 「今日も精々、いい青春を」  嫌味っぽく、そう言い残して。
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