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〔2〕Heaven or Hell?
おかしい。おかしいでしょうよ、この状況。
「茅ちゃんさ、いい歳してまだトマト食べられないわけ?」
「……食べればいいんでしょ、食べれば」
正面で頬杖をつく霞を睨みながら、皿の端に避けたトマトを頬張る。そして、もう一度自分に問いかけた。おかしくないか?この状況、と。
「お、頑張ったね。偉い偉い」
「うるはい」
強引に水を流し込みながら、目の前に並べられた二人分の食器を見据える。当然のように居座っている彼は、もちろんかの幼なじみで。
「明日も学校でしょ、早く帰んなさいよ」
「ん、軽く勉強してから帰るよ」
底の見えた皿をキッチンへ運び、手慣れた様子でシンクに浸す。茅乃はその後ろを追うように、残りの食器を下げた。
「ご馳走さま。あとは私が、」
「え?いいよ。もう洗剤付けちゃったし」
「……そう?ありがとう」
狭いシンクの中を、またもや慣れた手つきで華麗に回される食器たち。後ろからその様を覗きながら、茅乃は思った。同棲ってこんな感じなのだろうか、と。
「いやいやいやいや」
同時に、彼の体温から離れながら首を振る。耄碌するな私。誕生日以降、霞が尋ねてくるようになってから約一週間。ついに錯覚まで起こすようになってしまったらしい。同棲みたい、だなんて。……だからなのだろう。
毎日、毎日。
──『おかえり。お疲れ』
家の前で子犬のように待っているもんだから、ついに昨日、合鍵を渡してしまったのだ。……だって、ほら。他の住人に見られたりしたら、良くないことを詮索されたら、困るもの。
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