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◇
「言い訳がましいなぁ。それって茅乃の本音?」
「……う、」
昼休み。オフィスから少し離れた小洒落たビストロで、茅乃は喉を詰まらせた。同期の瑠璃川 仁紗、通称・瑠璃の言葉は、思い切り核心をついてきたからだ。
「世間体が気になるなら、普通は説得して帰すでしょ~そのまま」
本日のランチ、ローストビーフ丼を食すために結わかれたポニーが、視界の端で微かに揺れる。丸っこい瞳が特徴的で、愛され童顔フェイスな彼女は、顔に似合わず物言いが直球だ。だからこそ、同期の中でもとくに馬が合うのかもしれない。
「おっしゃる通りです」
茅乃は頭を垂れて両手を上げる。俗にいう、降参ポーズ。
周りの視線が気になるとか、外で待たせておくのが申し訳ないとか、そんなものは建前で。本当は日を追うごとに、家路を辿りながら思い描くようになってしまっていた。
──『おかえり。茅ちゃん』
英単語帳を片手に、うちの扉に背をもたれる霞の姿を。
「でもまさか、そんな面白いことになってるとはねぇ。いいなぁ若い男。しかもご飯作って待っててくれるなんて、高スペックすぎじゃん?」
「他人事だと思って……」
「えぇ、そりゃあ他人事だけどさぁ。でもシチュエーション的には美味しくない?少女漫画厨の私からしたらもう、かなり熱いね」
「いや……うん、そうなの?」
「そうだよっ。幼なじみ・現役高校生・満を持しての再告白……!とか、ときめかずにいられないって」
確かになかなかのパワーワードだけど、ひとつ忘れていないだろうか。
思い伏せながら茅乃は、デミグラオムライスを頬張った。……そういえば昨日の霞お手製ハンバーグ(トマトサラダ添え)、美味しかったなぁ。悔しいくらいに。
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