〔1〕Can't remember It.

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「偉いね。茅ちゃん朝弱いのに」  眼鏡、いつからだったっけ。切れ長の眼を覆うレンズを見据えながら、茅乃は場違いなノスタルジーに浸る。  上の方だけふわりと空気を含んだ黒髪に、控えめに生えた襟足。桜色に潤う薄い唇。昔から変わっていないものも確かにある。でも、学年を跨ぐたびに間違い探しをしてしまうのは、小さかった彼の残像を惜しんでいるからだろうか。  早坂(はやさか) (かすみ)。器用に退路を塞ぐこの男は、いわゆる幼なじみの腐れ縁。しかし目の前の微笑には、幼さひとつ垣間見ることはできなかった。  ただ、ひとつだけ。 「うるさい。で、今日学校は?」 「行くさ、もちろん」  首元を締め付けるえんじのネクタイは、数少ない彼の幼さを象徴している、と言えるだろう。だって、社内で見掛けるそれとは違って、どこかあどけなさを漂わせているから。 「ふぅん。ちゃんと用意してきたんだ」 「そりゃあね、はじめから泊まる気だったから」 「……ばーか」  やっぱり、昨日のアレは夢じゃなかったんだ。茅乃はより痛みを増した頭を押さえながら、腕の下を潜ろうと試みる。が、 「ちょっ……?!」 「はじめから()うつもりだったよ」  霞の長い腕がくるりと腰に巻き付いて、身動きが取れない。  細身なところは変わらないのはずなのに、どうして力だけはこんなに……。茅乃は唇を噛みしめながら、腰に当てられたぬくもりに胸を締め付けた。  薄い布地から伝わるこの低体温は、(いや)が応にも昨晩の出来事を思い出させてくるからだ。
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