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「ねぇ、なんでわかったの?嫌な事あったって」
「やっぱあったんだ。分かるよ。どれだけ一緒にいると思ってんの」
「一緒にね……でも、私は霞のこと全っ然わかんないよ。いつの間にか背も越されてるし、いつ眼が悪くなり始めたのかも知らないし」
「おい。もう飲むなよ」
霞はチューハイに伸びる手を、パシッと掴んで止める。真剣で鋭い目つきに気圧されて、茅乃は口を尖らせた。こんなに声低かったっけ、と意識の奥で何かが燻った。
「てゆーか、何で来たの。お酒取り上げるためじゃないでしょうね」
「違うよ。茅ちゃんはアホだね」
「……ねぇ、いつもそんな感じだったっけ?」
二年前に実家を出たあとも、霞とは何度か会っている。年に数回は突然こうして現れたり、年末年始はいまでも毎年、大きな早坂邸でステキなご馳走をいただく風習は続いていた。
ああ、そうだ。今年はお年玉もあげたんだっけ。弟と、霞の二人分。……それなのに。
「好きな子ほど苛めたくなるタイプだって、解釈してほしいな」
「はいはい、真面目に答えるつもりはないワケね」
生意気な妄言のせいで、瞼が容赦なく落ちてくる。
用がないなら尚更早く家に帰さなければ。未成年である彼のためにも、自分の睡魔のためにも。
茅乃は「よいせ」と立ち上がり、残った酒をシンクに流した。
「はい、これで満足でしょ。さ、お子さまは帰った帰った~」
──どうせ、大した用じゃないんでしょ。
そう付け足しながら、霞の腕を引っ張り上げる。ソファから持ちあがった身体は、やはり自分の頭一つ分大きいところまで成長していた。
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