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「なあなあ、さっきのあの子、なんで泣いてたの?」
「……」
「遅刻? 掃除さぼった? 教室でパス練して窓ガラス割った?」
それ、ぜんぶ間中くんのことじゃん──
というつっこみは心のなかだけにして、私は早足で教室へと向かう。
もちろん、うるさいクラスメイトを振り切るため。
なのに、間中くんはよゆうでついてくる。
悔しい。腹立たしい。
でも、身長差はどうにもならない。
私、153センチ。
間中くん、170センチくらい。
これじゃ振りきりたくても振りきれないのは当然だ。
「着いたー! 佐島、宿題!」
「貸すなんて言ってない」
「ええっ、なんでだよ!? 佐島、絶対やってきてるだろ?」
そのとおり。
でも、だからといって貸さなければいけない義理はない。
そもそも──
「間中くん、なんで宿題が出るかわかってる?」
授業内容の復習のためだよ?
学んだことを、もう一度頭にたたき込むためのものだよ?
「なのに人のノートを写すとか、それじゃ宿題の意味がぜんぜん──」
「わかったわかった、わかったから!」
間中くんは、私の言葉を雑にさえぎると、パチンと音をたてて両手を合わせた。
「次からはちゃんとやってくる! 絶対やってくる! だから今日だけ、おねがいします、佐島様!」
「……それ、先週も言ってたよね」
嫌味を言いつつも、机のなかから数学のノートを取りだす。
こんなの、絶対間中くんのためにならないけど、もう知らない。
次のテストで痛い目にあえばいいんだ。
「授業がはじまる前に必ず返して」
「わかった! ソッコー写してソッコー返す!」
ノートを受け取るなり、間中くんはビュンッと席に戻った。
ああ、やっと静かになった。早く次の授業の予習をしないと──
「どうしよう……山根先輩、超かっこいいんですけど」
「手ふったら気づいてくれるかな?」
「ふっちゃう? 思いきってふっちゃう?」
──またもや雑音。今度は、後ろの席の女子たちだ。
話題の中心は、中庭にいる3年生のこと。
体育祭で応援団長をやっていた人だから、顔だけはなんとなく覚えている。
(手を振りたいなら、さっさと振ればいいのに)
なんで、実行にうつさないんだろう。
手を肩の位置まで挙げて、左右に揺らすだけ。
ケガでもしていないかぎり誰にだってできる。
(ほんと、バカみたい)
こっそりため息をついて、開いたばかりの教科書に目を向ける。
でも、ひそひそ声って案外よく聞こえるものだ。
「山根先輩、カノジョいるって噂だよ?」
「あ、聞いたことある。バレー部の部長でしょ」
「えっ、私は吹奏楽部の池沢さんって聞いたけど……」
それはない──とつっこんでしまうあたり、やっぱり予習に集中できていないらしい。
ああ、もううんざり。
他人の噂話なんてどうだっていいのに。
(しかも、みんな恋愛のことばかり)
小学生のころから、ずっと思ってた。
みんな、恋愛話が好きすぎ。
恋愛のことで悩みすぎ。
でも、ここまでうんざりするようになったのはそれなりに理由がある。
なんといっても、我が家には──
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