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翌日は文化祭の振替休日だったので、間中くんと顔を合わせたのは火曜日の朝だった。
その間、私の頭のなかは彼のことでいっぱいだった。
落ち込んでいないかな。
やけくそになっていないかな。
「やっぱり告白しなければよかった」って思っていないかな。
なのに、2日ぶりに会った間中くんはびっくりするほど普段どおりだった。
「マナ〜、決勝残念だったなぁ」
背中にのしかかってくる山岸くんに、「やめろぉっ」って耳をふさいで抗議したりして。
「その話題ダメ! 傷口えぐるな!」
「なに言ってんだよ、準優勝もすごいじゃん」
「そうだよ、すごいよ、マナ。シュート決められなかったとしてもさ」
「やめて! お前ら、ほんとやめて!」
そっか、決勝戦負けたのか。
しかもシュートを決められなかったのか。
それは、めちゃくちゃ落ち込むだろうな。
(で、とどめが「失恋」──と)
でも、そっちはそんなに落ち込んでいないみたい。
ずっと心配していた身としては、なんだか拍子抜けしてしまった。
(面白そうな小説、持ってきたのにな)
男子でも楽しめそうな冒険小説。こういうのを読むと、失恋の悲しみがまぎれるんじゃないかって。
でも、必要なかったみたい。間中くんが落ち込んでいるの、サッカーのことだけみたいだし。
それが誤解だってわかったのは、昼休みになってからだった。
「なあ、マナいる?」
たまにうちのクラスに顔を出すサッカー部の子が、西原くんに声をかけている。けれども、肝心の間中くんの姿はどこにもない。
「あいつ、給食を食い終わるといつもいなくなるんだよなぁ」
「え、マジで?」
「マジで。いつもどこに行ってんだろう」
「いつも」の行き先なら、書庫だ。理由は、私と作戦会議をするため。
でも、今日は違う。会議の約束はしていない。
なのに、間中くんはどこかへ行ってしまった。
(まさか……)
なんだか胸がザワザワした。
予習のために開いていた数学の教科書を閉じると、私は教室を抜け出した。
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