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俺と竹林が追いついた頃、今池は自転車に跨ったまま、河川敷のグラウンドを見下ろしていた。
「あんな逃げ方したら、俺たちまで巻き込まれんだろ、お前の母ちゃんなんか今日怖えぇし」
「──あのババアしつこい」
蝉の声がジリジリと唸る夏、俺たちはこの町で何年も同じ光景を眺めてきた。
「んで、今度は何したんだ?」
そんな、毎年と何一つ変わらないと思って、軽々しく聞いた俺が悪かった。
「──朝帰り」
「へ?」
あっさり口にする今池に俺は言葉を失った。
確かに今池は、コンビニで年確されなかったことをクラスで自慢し、男女を集め隔週で合コンを開くような奴だが、制服に私服を取り入れ、ワックスで頭を固めるような奴とはちょっと違う。
「お前、中学生だろ?」
眉根を寄せた俺の顔を見て、予想通りと言わんばかりに今池は腹ただしく口角をあげた。
「そうは言っても俺たち、もう立派だろ?」
ナニがとは言わないが、言わんとすることは分かってしまう。
「なあ、俺たちみたいに勉強も運動もできて、顔も身長もそこそこ良い方に振り分けられた人間が遊んどかねえとさ──竹林に悪いだろ」
今池は時々俺を同類にしたがる。
「人生つれえ」
竹林が否定しないところを見ると、今池の評価はあながち間違いではないのだろう。
「よせ、竹林に聞こえるだろ」
「お前が一番失礼なんだよ」
竹林のツッコミを受け流しながら俺は、唾を飲み込んで今池に問いかける。
「──で、相手は?」
「俺たちの知ってるやつ?」
興味があるのは、俺だけではないらしい。
「いや、高3の女子」
「姉ちゃんと同い年かよ」
「ああ、そういや、お前の姉ちゃんも南高だっけ」
くそほどわざとらしい言い方をする。
「南高なのか?! お前、わざと黙ってたな」
ケラケラする今池の横顔がいつの間にか男らしく感じられ、余計に腹立たしい。俺は、自転車のタイヤを前に転がして今池のタイヤに当てた。
「って、いいのか? 彼女いて合コンって」
「いいの、彼女も呼んでっから」
「「えっ」」
竹林と俺がどんなに目を細めていようが、今池はそんなことお構いなしにどこか遠くを見つめている気がした。
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