夏、うるさくてしんどい。

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   授業終わりのチャイムが鳴った。  俺は手に持っていたその小さな紙を、隠れて読んでいた文庫に栞として挟み席を立とうとした。すると、間髪入れずに寄ってきた竹林はそれを引っこ抜いた。 「おい、読みかけだぞ」 「なあ、──誰だと思う?」  竹林は紙を開くと、ペラペラと俺の顔の前で仰いで見せた。目を細め、少しばかり出っぱった歯でニヤつく顔がやけに腹立たしい。  竹林は小学時代からの幼馴染だ。 「返せ」 「俺さ、知ってんだぜ教えて欲しいか?」 「いいや、欲しくないな」 「──上山も気づいてるよな?」  隣の席の上山は竹林の問いにこくりと頷いた。    図体は大きい割に小心者の上山は、かなり不思議なやつだが、俺が教科書を忘れた時に何も言わずに机をくっ付けてくれるような、優しい隣人だ。  俺は上山の机に置かれた菓子缶に溜まった紙を一枚取り出して本に挟んだ。 「勿体ない。お前、今日も行かないつもりなんだろ? 彼女、ずっと待ってんだぞ」  彼女。  俺はいつもの竹林のこの口振りから差出人が女であることを知った。  何通目になるだろう。    中学に上がってからは、こういった呼び出しに応えたことは一度もない。小学時代に酷い目にあったことが何度かある。  これは興味がないからこそ、集まってしまうあの現象だと思っている。  例えば、虫が嫌い奴に限って虫に好かれるとか。嫌がらせのように。 「竹林よ、俺が晒し者になるところがそんなに見たいのか」  俺の言葉を聞き届ける前に竹林は、大袈裟に両手を広げため息をついた。 「お前、相変わらず鈍感だな。度が過ぎると罪だぞ」 「──罪?」  竹林は親指を立て自分の背後を指差した。俺が竹林を退けてそちらを見ると、クラスメイトの視線が一斉にそっぽを向いた。  皆、受験生だというのに随分暇なようだ。
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