夏、うるさくてしんどい。

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 ──俺と姉ちゃんは3歳離れていてどちらも受験生だ。  受験生2人を残して両親が熱海旅行に出掛けたその2日目のことだった。  姉ちゃんは友だち数人を家に上げた。  その中に、陸人もいた。  陸人は姉ちゃんの通う南高校の生徒会長で、姉ちゃんが中2の時から好きな人だ。    陸人はいつ見てもシャツとズボンのサイズが合ってない。ダボダボ。背は170後半くらいあるのにヒョロヒョロしていて血色が悪い。おまけに髪まで白っちゃけている。こんなやつの、どこが気に入ったのか。まったく分からない。  俺は姉ちゃんに閉じ込められた自室の窓を開け、重ねた参考書を押し除けた。  俺を部屋に閉じ込めるのは幼い頃からの姉ちゃんのいたずらというか、弟イジメの手法である。  梅雨が明け、生温かい風の通る窓を潜て屋根に足を乗せる。程よくじんわり温かい屋根の煉瓦に一匹の蝉が死んでいた。 「いい人生だったな──」  蹴飛ばした死骸は弧を描いて庭先へ落ちていった。  この時までだった。  この時まで、俺はいい気になっていた。  中学3年生の純粋無垢な中坊の如く。  イタズラ心に胸を踊らせ、姉の驚く顔を想像して。純粋に、2人の邪魔がしたかった。    ずっと後悔している。    今思えば、この時見た蝉の死骸は、俺への忠告だったのかもしれない。  蝉は、世に出て3日で死ぬという。  俺がもし蝉ならいつまでも土の中にいる。  ずっと土の中で、誰にも気付かれないように。
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