夏、うるさくてしんどい。

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 合コン当日。  俺と竹林は、照りつくアスファルトに怯えるように、ベンチに腰掛け棒状の氷がポタポタ水滴に変わる様子を眺めていた。  よりにも寄って、お天気お姉さんが最高気温36度を予想した猛暑日の中、俺たちは今池家の営む煎餅屋の前で今池の解放を待つ羽目になった。  内容までは分からないが、今池の母親の怒声と今池の声は、店の前で待つ俺たちにも聞こえた。 「うるせぇ、ババア! こいつら、このままじゃ干からびちゃうだろ」  勢いよく開いた障子の奥から出てきた今池は、サンダルを履いて俺たちを気にする素振りなんてなく自転車に跨るなり逃走した。 「お、おい」  今池家では、お馴染みの光景だが、今日はちょっと様子が違った。  爆速する今池の後ろ姿を俺と竹林、それと今池の母親が見つめていた。 「ごめんね、待たせて。夕方には帰るようにね」  肩から深いため息を吐き出したあと、そう俺たちに笑いかけた裸足の母親の姿。  俺にはそれがちょっと怖くて、「はい、すみません、お邪魔しました」とそそくさと自転車に乗って今池の後を追いかけた。
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