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「私の話も聞いてくれる?」
「もちろん」
「私、おやすみっていう言葉を聞くと寂しくなるの。日中はそうでもないんだけど、夜寝る前におやすみって口に出すと、今日が今日でなくなるっていうか、もう今日は過去のことになってしまうような気がして」
田部君は私の話を黙って聞いていた。
「うん」
「だからって、どうしようもないことだとはわかっているんだけど」
「じゃあ、今度からおやすみは言わないことにしよう」
田部君はそう言った。私が今話したことがきちんと伝わっているのか心配だったけれど、どうやら彼が理解してくれたらしいということは表情から読み取ることができた。
私と田部君の小さな約束。それが何になるだろうか。それでも、私達は約束ごとを重ねていく。意味があるのかないのか分からぬままに、おそらく永遠と。それは田部君と仮に別れたとしても、別の誰かと重ねていくものなのだろう。そう思うと、少しだけ胸の奥が切なくなって、私は小さく胸を押さえた。
それは「おやすみ」と言われたときの痛みに近いものだったことを、私は忘れない。
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