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1.「習い事」
水泳。劇団。バレエ。ダンス。外国語。絵画。書道…etc。
物心ついた時から父に強制された習い事の数々。厳しくも果敢に立ち向かった私の
「いやだ」
という言葉は父の
「これは未来のお前を守るためなんだ」
という言葉に説き伏せられてきた。言葉というよりも父の気迫に満ちた顔に気圧された、という方が正しいのかもしれないけれど…。
「———もう~嫌! ぜんぜん友達と遊べないし…。
将来私が独りになっても良いって言うんだ。あの人は」
自室に戻り、父に言い渡された次なる習い事にむけて準備をしながら文句を漏らす。すると、それを察したようにあのコがやってきた。
【※※※※※≠※※※※※※!】
家庭支援用AI。
足となる黒い球体にちびたクレヨンを被せたような見た目のロボットは仕事で家を空けることの多い父に代わり炊事・洗濯等の家事を担っており、昔から私の面倒も見てくれている我が星連家の一員であり、良き理解者だ。
「そうそう。いつか…その———ギャフン!
そう! 父さ…あの人を「ギャフン」と言わせてやるんだから」
勿論、あのコが言葉を発するはずも無く、全ては私の独り言で妄想の一部にすぎないのかもしれない。けれども、あのコの発する電子音には独特の高低差とリズムがあり、不思議と会話が通じているのだと錯覚してしまう。…きっと十年以上も同じ時を過ごしてきたからなのだろう。
ピピピピピッ!
【※※※※! ※※※※…】
「うん、もう行かないとね」
アラームを止め、リュックを背負って玄関に向かう。
メッシュスニーカーを履き、日焼け止めスプレーを全身に吹きかけた後、ツバをつまんで帽子の位置を微調整する。
「じゃあ、晩ご飯よろしく。行ってきま~す」
そうして玄関の扉に手を掛けながら家族に手を振り、私は習い事へと向かった。
父から言い渡された新たな習い事は「音楽」。
中学3年の夏休み。その一日目となるこの習い事——器楽・洋楽・邦楽…と数あるジャンルを内包する「音楽」——における一つの出会いが私の運命を大きく変えることになる。
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