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やがて、戦争は終わった。
俺たちは前線で戦っていたにも関わらず戦争の勝敗について何も分からなかった。おそらく本国でニュースを聞いていた人々の方が詳しいだろう。
数年ぶりに本国に帰ることになって撤収作業をしているとき、一人の兵士が俺を訪ねて来た。それはあのとき俺が傷口を押さえていた兵士だった。あの後、衛生兵に兵士を引き渡した俺はその場を離れていたが、兵士は一命を取り留めたらしい。意識が戻ってから、俺がずっと止血をしていたことを他の兵士から聞いてわざわざ礼を言いに来たとのことだ。
「アンタは命の恩人だ」
兵士は何度も俺にそう言った。いつか必ず恩を返す、と言い残して去って行った。
俺は、命の恩人、という言葉を聞いて彼のことを思い出していた。彼は間違いなく俺の命の恩人だった。彼がいなければ俺もあの兵士もあのとき死んでいただろう。もう死んでしまった彼にしてやれることは何も無い。けれど、彼に何か恩を返さなくては、という気持ちはどうしても消えなかった。
彼のことを考えていて、彼の話に出てきた許嫁の彼女のことが気にかかった。愛していた恋人を失い、婚約者も戦争に奪われてしまった彼女のことを思うと胸が痛んだ。俺は彼の最期を彼女に伝えるべきだと感じた。
帰国して落ち着いたら、彼女に会いに行って彼の話をしよう。そう心に決めた。
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