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6時
「雨、やんだね」
俺たちのゴンドラはほぼ一周し、地面近くまで下降していた。
いつも思う。観覧車が頂点を過ぎると、その後は往路より早い気がするのはなぜだろう。
「森嶋……今更だけど、その、ごめんな?」
あの頃の俺は、自分のしたことにそれほど罪の意識を感じてはいなかった。それどころか、いつか警察が事情を聞きに来るんじゃないかと怯え、捜査が進展しないまま時が経つことに安堵していた。彼女が生きて保護されるよりは、このまま行方不明でいてくれるよう、むしろ、遺体で見つかる結末を願ってさえいた。
だけど、家族を持った今なら分かる。一人娘が行方不明のまま、森嶋の母親がどんなにつらい二十年を過ごしたか。
息子が将来学校で、森嶋のようないじめにあったらと考えるだけで、胸が痛む。謝罪など自己満足でしかないが、俺は昔の過ちにけじめをつけたかった。
森嶋はうつむいて口の端を上げ、ぱさぱさとおさげを揺らした。
「笹口君、お願いがあるの。戻ったら、あの日あったことと、私がその森に埋まってること、警察に話してくれる?」
微笑みながら問われ、俺は固まった。自分のしたことを反省してはいるが、それを人に話せるかと言えば話は別だ。それに、自分だけの問題じゃない。もし捜査が再開されたら、今は平穏に暮らしている当時のクラスメイトにも迷惑がかかる。
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