6時

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「ひ……っ!」  瞠目した俺の目の前で、息子は突然、炎に包まれた。幻覚なんかじゃない。皮膚がチリチリするほど熱く、俺は本能的にシートの端まで下がり窓に背をつけた。見れば妻の全身も渦巻く炎に包まれ、その熱と匂いはすぐにゴンドラいっぱいに充満した。 「森嶋……っ!?」  いつのまにか姿を消した彼女を呼ぶと、背後でくすくす笑う声がする。 「笹口君、私、ひとつ嘘をついてた」  ハッと振り返ると、森嶋は揺れるゴンドラの外にいた。うっすら笑い、籠の鳥を見るような目で俺を見ている。 「笹口君はね、いわゆる幽体離脱してたの。体はまだあの団地にいるわ。動かないあなたをがんばって起こそうとした息子さんと、子どもを助けようと火に飛び込んだ奥さんも、仲良く一緒にね」  息子の燃える手が俺のシャツをつかんだ。その小さな体に、妻が抱きつく。炎はあっという間に俺の全身を包み、俺たちは一つの火だるまと化した。 「ぎゃああぁぁっ!」  ゴンドラが激しく揺れ、観覧車が軋む。  ガゴン! 大きな金属音に怯え血走った俺の目に、森嶋の微笑が映った。 「心配しなくても、落ちることはないわ。だってあなたはここから、出られないんだもの」 「お前、俺を好きだったんじゃないのかよっ?!」  叫んだ俺を、彼女は虚ろな目で見下ろした。 「分かってないなぁ」 「え……っ?」 「だから、許せないのよ」
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