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「森嶋……」
何もかもが異様だ。戦慄した俺が名前を呼ぶと、彼女はスッと真顔になった。
「私のこと、覚えてたんだね」
「そりゃあ……」
中学を卒業して二十年。だけど、俺が森嶋を忘れるはずがない。認めたくないだけで、自分が今どこにいるのかも、薄々分かっていた。
ここは、つぶれて廃墟になった、県のはずれにある遊園地だ。地元の人間なら誰もが知っていて、「遊園地」といえばここ以外になかった、巨大観覧車が目玉のレジャー施設。そして、中学三年の夏、俺と森嶋がデートするはずだった場所だ。
「あの日、一緒に乗れなかったじゃない?」
俺の考えを読んだかのように、森嶋が言った。あの日、駅の改札に向かうときに見せたのと、同じ笑顔で。
ギギギギィ……ギギギギギギギィ……
断続的に聞こえる耳障りな音が、錆びた観覧車が風で動くときに立てる金属音だと気づいたとき。
「だから……一周だけ、付き合ってください」
彼女は少しうつむき、色のない唇を弓形にしならせた。
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