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ごくり。自分が唾を飲み込む音が、体の内側から響いた。
落ちたら死ぬ。俺にはそう言ったが、中学生のままの姿で目の前にいる森嶋が、生身の人間だとは思えない。
幽霊……?
恐怖や戸惑いよりも、やっぱりという気持ちが強い。おそらく森嶋の母親でさえ、もはや娘の生存を期待してはいないだろう。二十年も見つからなかった少女が生きていたら、奇跡だ。
行方不明になったあの日、森嶋は、ここで死んだに違いない。
確信とともに、重大な疑問が湧いた。
森嶋は、知っているんだろうか。あの日、俺が最初からこの遊園地に来るつもりなんかなかったことを。だとしたら彼女は、間違いなく俺を恨んでいるだろう。
でももし、知らないまま死んだのだとしたら……
森嶋は俺を好きだったはずだ。本当に純粋に、叶わなかったデートに未練を残しているだけだとすれば。観覧車が一周すれば、俺は無事に帰れるのかもしれない。
どっちだ……?
ぼろぼろのゴンドラが揺れて軋む。電気が通っているはずもなく、真夏のぬるい風を動力にゆっくりと回る観覧車。俺たちのゴンドラはちょうど中心軸の真横、3時の位置にいる。
俺は向かいに座る森嶋をじっと見つめ、どう出るのが得策かを考えていた。
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