2時

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2時

 窓ガラスに、ポツリと雫がぶつかった。  ひとつ、ふたつみっつ。  すぐに土砂降りになった雨はゴンドラを激しく打ち、その雨音が、観覧車の車輪が軋む音との不協和音を奏で始める。 「私ね、夕立の境目を見たことあるんだ」  ガラスを叩く雨粒を見ながら、彼女はつぶやいた。 「小学生のとき。ザァッて音がして見たら、前の道がね、濡れて色が変わってて。私のいる公園は晴れてたのに、すごく不思議だった。向かいのマンションの洗濯物もみるみる濡れて、この湿っぽい、独特の雨のにおいは公園にも届いてたのに、こっち側は最後まで濡れないままだったの。夕立に気づかずに遊んでた子もいたくらい」  確か高校のときに習った。夕立は、積乱雲の下だけに大粒の雨が降る。その雲の切れ目にいたら、そういうこともあるかもしれない。 「夕立って、いじめに似てると思わない?」  思い出話からの、突然の転換にギクッとした。顔を上げた俺に、彼女が薄く笑う。 「局地的に、そこだけ大雨なところがね、あのときの公園とちょうど逆だなって思ったの。同じ教室にいても、みんなのところは晴れてて、楽しそうで。私の上にだけいつも、雨が降ってるみたいだなって」  うつむいて微笑む森嶋に、俺は言葉を失くした。  つらく暗いシーンのとき、漫画のキャラはよく雨に打たれている。彼女の中学生活はもしかしたら、ずっと土砂降りだったのかもしれない。
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