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俺が存在を認識したとき、森嶋はすでに「いじめられっ子」だった。特に目立つ欠点があるわけじゃない。それでも、彼女はクラスでバイ菌のように扱われ、いつも一人でいた。
俺は別に、好きでも嫌いでもなかった。そもそも、そういう感情が発生するほど森嶋のことを知らなかった。俺はただ、自衛のためにクラスに協調しただけだ。
「森嶋、明後日の土曜日、ひま?」
夏休み直前のある日、俺はひと気のない教室で森嶋の前に立った。普段クラスメイトに話しかけられることのない彼女は、驚いて顔を上げた。
「遊園地のタダ券二枚もらったんだけど、一緒に行かない?」
確か、返事はなくて。森嶋は車に轢かれそうになった猫みたいに、びっくり顔で硬直していた。
「土曜日10時、パークのゲート前。誰にも言うなよ」
俺は一方的にそれだけ告げて、教室を出た。廊下を曲がるとクラスメイト数人が待ち構えていて、
「ちゃんと誘ったんだろうな」
「森嶋なんつってた?」
そう聞いてきた。教室が無人だったのも偶然じゃない。クラスの奴らが演出した、雰囲気作りだった。
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