2時

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 俺は最初から、遊園地に行く気などなかった。タダ券なんて嘘だし、待ち合わせに俺が現れなければ、森嶋だって小一時間で帰ると思っていた。友達のいない森嶋はどうせ休日に予定もないだろうし、デートをすっぽかされたなんて恥ずかしくて誰にも言えないだろうから、問題になることもないと思ってた。  実際、俺以外の奴らもみんなその程度に考えてたはずだ。だからこそ、当日の朝早めに集まって、最寄り駅の改札を通る森嶋を高みから見物したりできたんだ。  土曜日の午前9時、俺たちは駅前のファストフード店の二階から、駅に現れた森嶋を見ていた。彼女は小学生みたいなふりふりのミニスカートを履き、上は制服の白シャツだった。 「マジうける。あれが一番のオシャレかよ」 「パンツ見えそうに短かったぜ。あいつ笹口のこと誘惑するつもりじゃん?」 「きちー! いろんな意味で、きちー!」  みんなはゲラゲラ笑い、俺も一緒に笑ったけど。  森嶋の家が母子家庭で、いじめが始まった理由が「いつも同じ服を着ていて臭い」だったことを俺が知ったのは、彼女がそのまま行方不明になった後のことだった。
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