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「夕立なんて大嫌い」
あの日履いていたのと同じ、魔法少女のようなミニスカート。目の前のそれを見ていた俺は、持ち主の低い声に顔を上げた。
「私、折り畳みなんか買ってもらえなかったから、いつも傘持ち歩くなんてできなかったんだ。夕立で制服が濡れると、次の日ちょっと臭うじゃない?」
「森嶋……」
「迷惑だろうけど、私、笹口君のこと好きだったんだ。クラスで私を臭いって言わなかったの……優しくしてくれたのも、笹口君だけだったもんね」
違う。いじめに加担しなかったわけじゃない。俺は「そういう役」だっただけだ。ときどき気まぐれに優しくして、森嶋に「惚れさせる役」。作戦どおり俺のことを目で追うようになった彼女を、クラスの連中は陰で笑っていた。
否定して謝るべきだろうか。でももし森嶋がそれを知らないなら、薮をつついて蛇を出したくはない。
「お前、あの日……」
どうしたんだ? 何があった? 恐ろしくて、俺はそれを聞けなかった。どんなことがあったにせよ、俺に責任があるのは間違いないからだ。
森嶋の失踪は、間もなく公開捜査に切り替わった。しかし彼女の母親は娘の行き先も服装も親しい友人も知らず、目撃情報は全く集まらなかった。そして事件か事故かも判明しないまま捜索は打ち切られ、二十年の時が経ったのだ。
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