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3時
「笹口君、付き合ってください」
突然の告白に、俺は凍りついた。黒髪をお下げにした中学時代の同級生が、当時の姿で目の前に座っている。微笑む彼女の後ろには、錆びた窓枠にひび割れたガラス。俺たちはなぜか、古い観覧車のゴンドラの中にいた。
「なんで……っ?」
さっきまで自宅にいたはずだ。今は土曜日の午後。昨夜は明け方まで同僚と飲んで始発で帰宅した。妻がパートに行き、俺は一人で寝ていたはずなのに。
「ひぃっ!」
視線を下ろした俺は、息を飲んだ。足元に、他のゴンドラの屋根が見える。ガラス張りの床じゃない、底が抜けているんだ。骨組みだけを残した床から慌てて足を引っ込め、俺は破れてボロボロのシートに踵を乗せた。
「これでも比較的まともなカゴを選んだんだけど。落ちないように気をつけてね」
向かいのシートに座る元クラスメイトが、小首を傾げて笑った。
「笹口君は、夢の中にいるんでも、精神だけが飛んできてるわけでもないから。落ちたら普通に死んじゃうよ」
不穏なことをさらりと言いながら彼女は、ピンクのミニスカートから出た白い脚をぶらぶらさせている。
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