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幻を想う①
暗くなってきた外を眺めながら、今夜は特別な夜になる予感があった。
ベランダの窓を開けると、程よく冷えた夜風が全身を撫でる。
思いっきり息を吸って気合を入れた。
あなたが好きな料理を準備して、グラスを二つ並べる。
あなたが好きな音楽をかけて電気を消した。
そして、あなたが買ってくれたトルコランプに火を灯す。
色とりどりのガラスタイルを散りばめたモザイクランプは、赤、紫、青、緑のグラデーションが美しい。
その光が四方に散らばると、部屋の壁も色どり豊かな光を宿した。
ねえ、綺麗でしょう。
幻想的な光の中、後はあなたを待つだけだわ。
ーーーーーーーー
「僕と付き合ってみない」
そんな気障なセリフをはいた涼介を、私は最初なんとも思っていなかった。
サークルの中では、確かにイケメンでみんなに人気があった。
けれど、私は当時一つ年上の部長の事が好きでその人のことばかり見つめていたから、はっきり言って涼介のことは目に入っていなかったのだ。
でも憧れの部長は私の友人の事が好きで、結局二人は付き合い始めた。
失恋した上にその友人と一緒にいるのも辛くて、私はサークルをさぼりがちになった。
そんな時、いきなり講義の後つかつかとやってきて、そんなのセリフを吐いたのだ。
私は最初、何を言われているのかよく分からなかった。
「何言ってるの? 好きでも無い人と付き合うわけないじゃない」
今考えると随分酷い返事をしたものだと思う。でも彼はひるまなかった。
「好きにさせてみせるよ」
そう言うなり、いきなりデートに連れ出された。
まずはゲームセンターに連れて行かれて、ぼこぼこに対戦し合った。
ゲームなんて普段やらない私だったけれど、失恋と友人を失った憂さ晴らしとして、対戦ゲームはストレス解消にもってこいだったことに気づく。
その後は、なぜか日帰り温泉施設に行こうと言い出した。
汗を流してすっきりした後、少し照明を抑えたリラックスコーナーの長椅子に隣り合って座った。
いきなりすっぴんを見られて焦ったけれど、彼は照れもせずに言ってきた。
「すっぴんでも綺麗だな」
歯が浮くようなセリフも平気で言ってくる彼のことを、最初はプレイボーイと思っていたけれど、中身はとっても熱くて優しい男性だと気づくのに、時間はかからなかった。
湯にあたって上せ気味なのか、それとも彼の言葉にドキドキしているのか、わからなくなる。
でも、ゆっくりと飲んでいたはずのお酒が程よく回ってきて、舌が滑らかになってきたのは仕方ないこと。
ぽつりぽつりと語る私の言葉を、彼は黙って聞いてくれた。
泣きたくても泣けなかったのに、彼の前でポロポロ泣けた。
いつの間にか私は、そんな涼介に夢中になった。
ーーーーーー
毎週末、必ず一緒に夕食を食べようと約束していた。
それは私のわがまま。
無意識に彼の愛を試していたのかもしれない。
仕事と私、どっちも大切なことは分かっているのに。
いつも私が一番って、気障なセリフを証明して欲しくて……
彼は海外の出張も多い仕事だったけれど、必死で日程をやりくりして週末の二人の時間を確保してくれた。
旅先で買って来てくれたトルコランプは彼のお気に入りで、ランプの光の中の彼はいつも柔らかく微笑んでいた。
彼と語り合いながら料理とワインに舌鼓を打つ。
その後二人で共に眠れば、彼の温もりが優しく私を包み込んでくれた。
彼との時間は私にとって最高の癒しの時間。
でも意地っ張りで素直じゃない私は、そんなことは一度も口に出して言ってはあげなかった。
それなのに、彼はいつも嬉しそうに笑ってくれた。
だから、私は勘違いしていたんだわ。
あなたは永遠に私の傍に居てくれると。
あの日。
温もりの無くなった彼を見るまでは……
幻を想う②へ続く
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