四つ葉のクローバー

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四つ葉のクローバー

 引っ越し荷物の整理中。思わず懐かしい本を手に取った。    中学生の頃に大好きで、何度も何度も眺めていた本。  誕生日プレゼントで両親からもらった『赤毛のアンの手作り絵本』  その名の通り、『赤毛のアン』の本の中で出てくるお料理だったり、お菓子だったり、編み物や洋服など、色々な手作り作品のレシピが紹介された本。  パラパラとページをめくってみると、美しいカラー写真と、可愛らしいイラストが今もとてもお洒落だ。  こんな生活してみたい。  こんな風に自分で手作りできるようになりたいって。  あの頃の私の憧れの世界だった。  結局は眺めるばかりで、作ったことのあるのはほんの少しだけれど。  その時、ページの間からはらりと落ちた物があった。  慌てて拾い上げると、少し茶味がかった緑の四つ葉のクローバーだった。 「こんなところに入れていたんだ!」  挟み込まれていたのは『アップルコーヒーケーキ』のレシピページ。  そうだった。お礼にアイツに作ってあげようって思ったんだ。  だから忘れないようにって、ここに栞代わりに挟みこんだんだわ。  あの時のこと、思い出した!  中学三年の春。  クラスのグループ内でギクシャクして、学校の居場所が不安定だった。  受験の年と言うことで、自分の進路も考えないといけない。  成績は思うように伸びなくて、親からも心配されていた。  何もかもうまくいかなくて、焦ってイライラしてむしゃくしゃして……    だから、少しでも今の状況を変えたくて。何かに縋りたくて。  公園で四つ葉のクローバーを探したんだ。  黙々と一人で。  きっとその姿は、傍からみたら滑稽だったと思う。でも、そんなこと気にしている余裕すらなかった。    でも全然見つからなくて。  悔しくて、悲しくて、半泣きのような顔で探していたら、頭の上から声が降ってきた。 「何やってんだよ?」  幼馴染のタカヒロ。小さい頃はいつも一緒にこの公園で遊んでいたけれど、中学に入ってからはあんまり話さなくなっていた。  部活もクラスも違うから、話す機会が無くなっただけかもしれないけど。 「別に。何でもいいでしょ」 「わかった。四つ葉のクローバーだろ」 「……」  なんでわかったんだろうと思いつつも、黙っているとタカヒロはおもむろにベンチへ向かって歩いていった。  少しかがむようにしてベンチの足元を覗き込む。    少し眺めた後、今度はしゃがみこんで手で地面を弄り始めた。    何やっているのだろうと思いながらも、話すのも面倒くさくて、私はもう切り上げようと立ち上がった。 「ほら、見つけた」 「え?」 「四つ葉のクローバー」  そう言いながらこちらにやってくると、ほいっと私の手の中に投げ込んできた。  両手で受け止めて確認する。 「わ、本当だ。四つ葉だ!」  驚いて目を見開いた私に、あいつはドヤ顔で言った。 「昔もよく一緒に探したろ。で、ベンチの足元に結構できやすいって気づいたじゃん」  そんなことを忘れて散々探し回っていた自分が恥ずかしくなって、私はふてくされたように言った。 「これはタカヒロが見つけたからタカヒロのだよ」 「でも、俺いらねえし」 「でも四つ葉のクローバーだよ。なんか幸せなことあると思うよ」 「何か幸せなこと起こって欲しかったんだ」 「そ、そんなことはないけど」 「別にいいじゃん。俺が持っていてもゴミになるだけだし。お前が持っていろよ」 「でも……」 「じゃな」  そう言ってさっさと帰ってしまった。 「もう、捨てたら可哀そうだから、私がもらっておいてやるか」  素直じゃない私は、そんなことを呟きながら持って帰ってきたのだった。  そしてこのページに挟んだのよね。  結局その後、アイツにこのケーキを作ってはあげなかったけれど。  でも、今からでも遅くないわね。  だって、これからは一緒に暮らせるんだから。  もうすぐ私はタカヒロのお嫁さんになる。  小さい頃にあの公園で交わした約束。 「「大きくなったら結婚しようね」」  小さな小指を搦めた約束。  守れたね。  私はあの時の四つ葉のクローバーを、もう一度大切に本の間に挟んだ。    幸せになれたのは、きっとこの栞のお陰。  一生大切にしよう。             Fin
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