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プロローグ 中学校演劇発表会 県大会
降りたばかりの緞帳の向こうから豪雨を思わせるほどの拍手が聞こえている。会場の空気が細かく波打つのさえ感じられる。
身体の中心を圧迫されるような感覚がして、息が詰まる。その感覚は手足に伝わり、つま先、指先で軽い痺れとなる。それはすぐに頭頂にまで達し、髪の毛が逆立つ錯覚すら覚える。全身、頭皮まで鳥肌がたっているのだ。
――ああ、これだ。この感覚があるからやめられない。
すぐそばに立つ瑞希と手を取り合う。言葉はいらない。ただ、手を強く握り合う。
自他共に認める最強のパートナー。お互いの力を認め合い、切磋琢磨してきた。けれど、私たちはライバルではない。太陽と月のように、一対の存在。互いの輝きを更に増すことのできる存在。それは、同等の力があればこそ。
お互いにそう思っていることは、いつも語り合っているからよくわかっている。
やがて、仲間たちが出てきて横一列に並び手をつなぐ。みんな笑顔だ。半泣きの笑顔も混じっている。
再び緞帳が上がり始めると、会場の拍手がさらに強まった。
足元から空間が開けていく。
私たちはつないだ手に力を込める。
上手、下手に続いて、正面にお辞儀をする。
「ありがとうございましたっ!」
前屈体操ほどに上体を折り、全身で感謝の気持ちを発散する私たちの前に、緞帳が降りてくる。
また拍手が高まり、緞帳が床につくとようやく穏やかに静まっていく。
『ただいまをもちまして、全校の公演が終了いたしました』
会場のアナウンスに重なって、席を立ったり、会話をするざわめきへと変わっていく。
部長として私は真っ先に気持ちを切り替え、声をあげる。
「バラシ!すぐに結果発表あるから、急いで!」
「はいっ!」
みんなの返事は軽やかだ。それぞれの持ち場を手際よく片付ける。
「梢、わかってるよね?」
バラシにかかった私に向かって、瑞希が小道具を両腕に抱えたまま声をかけてきた。
「わかってるよ、瑞希」
私は力強く答える。
「絶対だからね、梢」
瑞希はにっこり微笑んで頷くと小道具を抱えて舞台袖へ急いだ。
わかってるよ。ちゃんとわかってる。
違う高校に行っても、またこの舞台で会おう。そのためには、県大会まで勝ち進むしかない。
またすぐに帰ってきてやる。この会場に。この舞台に。絶対に。
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