180人が本棚に入れています
本棚に追加
26 訪問者
声をかけてきた笑顔は、ホームページよりちょっと老けてるけど、間違えようがない。辰巳佳道弁護士だ。ということはやっぱり、大和のお父さんは冴木議員なんだ……。
「……こんにちは」
思いがけない人を思いがけない所で見る。
心の準備ができてなくて、返事の仕方がちょっとキョドってしまったかもしれない。相手の笑顔の、視線が痛い気がする。
「よかったらご案内しましょうか?」
学校案内図の前に立っていたから、会話としては無難だ。でも通り過ぎるきっかけを失って、辰巳弁護士と向き合うことになってしまった。
「いや……私は保護者じゃないんですよ」
弁護士が、私をじっと見た。名札を確かめてから言う。
「支倉さん。あなた、私のことを知ってますね?」
——イエスと言って、話してみたいか。
——ノーと言って、知らんぷりを通すか。
迷ってしまって、返事が詰まった。それは結果的に、イエスと言ったことになってしまう。
私たちはそのまま廊下の突き当たり、誰もいない会議室の前へ移動した。
最初のコメントを投稿しよう!