26 訪問者

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 声をかけてきた笑顔は、ホームページよりちょっと老けてるけど、間違えようがない。辰巳佳道弁護士だ。ということはやっぱり、大和のお父さんは冴木議員なんだ……。 「……こんにちは」  思いがけない人を思いがけない所で見る。  心の準備ができてなくて、返事の仕方がちょっとキョドってしまったかもしれない。相手の笑顔の、視線が痛い気がする。 「よかったらご案内しましょうか?」  学校案内図の前に立っていたから、会話としては無難だ。でも通り過ぎるきっかけを失って、辰巳弁護士と向き合うことになってしまった。 「いや……私は保護者じゃないんですよ」  弁護士が、私をじっと見た。名札を確かめてから言う。 「支倉さん。あなた、私のことを知ってますね?」  ——イエスと言って、話してみたいか。  ——ノーと言って、知らんぷりを通すか。  迷ってしまって、返事が詰まった。それは結果的に、イエスと言ったことになってしまう。  私たちはそのまま廊下の突き当たり、誰もいない会議室の前へ移動した。
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