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呼ばれるままキッチンに入ると、奥の畳の部屋に段ボール箱がいくつも置いてあるのに驚いた。開けっぱなしのタンスがほぼ空になっている。
「何これ? 引っ越しでもするみたいに」
「そうだよ。君も今から大急ぎで荷物をまとめるんだ。今日中にホテルに移ってもらう。私がすぐに新しく住むところを手配するから、決まったら荷物は届ける。君たちは移動するだけでいい、ただしすぐに」
背後からの声に振り向くと、キッチンの入口の横に男が立っていた。小柄で痩せた体に纏うスーツに、小さいバッジがついている。初めて会ったけど、彼が辰巳弁護士なんだろう。
「今日中って何だよ。引っ越しなんて聞いてねーし。何で夜逃げでもするみたいに慌ててんだよ?」
母に聞いたのに、またも後ろから小さく笑う声がして、俺は辰巳弁護士を睨んだ。
「『夜逃げ』で間違ってないよ。今日をもって君は、ここでの友だち、知り合い、全ての前から消える。これからは今までの自分を切り離して、新しい場所でひっそりと生活してもらうことになる」
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