夜逃げ転校生

１ 夜逃げ転校生

　にじょうこうちやまと、という珍しい名の転校生について、はっきり言って私は関心が無かった。
　ただ、中学三年の始業式の日、中庭の掲示板にクラス発表が張り出された時、隣のクラスに見慣れない変わった名前があるな、と思った程度だ。

［二条河内大和］

　……ん？
　どこまでが名字？？

　二度見しようとした瞬間、
「莉子ぉぉぉ！」
「うぉぅっと！」
　体当たりみたいな抱擁を受けて、思わずよろけた。

「よかったー！　莉子、また同じクラスだよぉ！　四組」
「うれしー！　けどまりり手加減してよぅ（泣）……」

　そうして、一瞬だけ気になった文字列は私の頭からあっという間にすっ飛んでいって、そのまま戻って来ることはなかった。

　それっきり、忘れてた。

　その、私に無関係のはずだった名前がにわかにクローズアップされたのは、一学期が始まって一週間たった放課後、今年度一回目の、前期広報委員会でのことだった。