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芝崎圭人はベットの壁に埋め込まれているデジタル時計に目が行った。うんうんと相槌は打っているが、スマートフォンから聴こえる声は耳をすり抜け、頭には一切入ってこない。
「聞いてる?」
「ああ、聞こえてるよ。今日も仕事が忙しかったんだ。これからも、忙しいし、しばらく帰れそうにないよ」
飲み終わった缶ビールの空き缶をゴミ箱に捨て、スマホを耳にあてたまま、ユニットバスに入る。鏡に映った顔は黒くて、暗い。酔いが回っていない。
「そういうことだから、じゃあね。切るよ」
芝崎は、おやすみと聞こえたが、それに返す事無く電話を切った。幼い頃から聞き飽きた声だった。こちらの心配よりも、自分の言いたいことだけを言うために電話を掛けてくる。
明日は、朝一番の便で新潟を発つ。すぐにでも眠りたいところだが、このままベッドに入ったところで、眠れる気がしなかった。芝崎はカードキーを手に取ると、小銭を握って部屋を出た。
確か、フロント前のロビーに缶チューハイを売っている自動販売機があったはずだ。
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