ただいま恋人休業中!

1/6
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ

ただいま恋人休業中!

「そんな奴だとは思わなかった」  俺は苛立ち紛れに吐き捨てた。  確かに、自分は少々甘えていたのかもしれないと思う。こいつなら、自分が一番大事にしているものが何であるのか、言わなくても分かってくれているはずだと。幼馴染として出逢ってから、早十八年は過ぎている。付き合うようになったのが高校の時だから、恋人としても既に三年以上。酸いも甘いも、というほどではないにせよお互いのことは知り尽くしているだろうとばかり考えていた。そして、言うべき言葉が足らなくなっていたというのはあるのかもしれない。  けれど。  だからって、こんなのはない。あまりにも酷い裏切りじゃないか。 「俺がどうして……同性だってのに、お前と付き合ってたかわかるかよ」  テーブルの向こう側で俯いている恋人――智也(ともや)。そう、自分達はどっちも男性だ。お互い女にしか興味がない、ドストレートな人間だと思っていた。それなのにこの二人が恋人同士になった経緯は他でもない、この相手ならそんな性別の壁さえ飛び越えて、ずっと永遠を共有できるとばかり信じていたからである。  だが。 「この浮気野郎!」  俺は思いきりテーブルを叩いて、智也を射殺さんばかりに睨みつける。 「あんな……よりにもよってあんな尻軽女がいいのかよ!ああ、ああ、結局アレか。ツンデレ清純派の巨乳だったらなんでもいいってか!あいつがどんなひでえ裏切りをやったかわかってんのかよ!!」 「なんだと?」 「何だよ智也、俺の言ってることの何が間違ってるってんだ?」  俺の言葉に、智也も耐え切れなくなったのか立ち上がる。 「誰が尻軽女だ。彼女ほど優しくて、思いやりに長けた娘はいないぞ。それこそ、お前が思ってるよりずっとな」  つかつかとテーブルを回り、俺の目の前にやってくる。さすが元ヤン、というべきか。本気で怒った時の智也の眼光はハンパない。一瞬、俺も気圧されてしまったほどだ。  好きな女を尻軽呼ばわりされて、怒るのは当然だろう。しかし勿論、俺だって退くつもりはないのだ。そもそも、彼があんな女にうつつを抜かすのがまず間違いなのではないか。彼女が優しいだの、思いやり深いだのと思っている時点でこいつは完全に騙されている。俺は前々からちゃんと話していたはずだ、あいつの本性を。いくら見た目が美人でも、彼女がどれほどおぞましい所業を成した悪女なのか、何度も何度も繰り返し諭していたはずだというのに。だから、何が何でも近づいていけないとそう教え込んでいたはずだというのに! 「僕から言わせれば、お前だって同罪なんだよ(すぐる)」 「何だと?」 「僕は知ってるんだ。お前が本当は……それこそ、僕と出逢う前からずっと……あの子のことが好きだったってこと。誰のことかなんて言わなくても分かるよな?美咲のことだよ」  まさかここで、美咲の名前が出てくるとは思ってもみなかった。俺が少しばかり戸惑っていると、彼はしらばっくれていると思ったのか俺の胸倉を思いきり掴みあげてくる。馬鹿力で締め上げられて、少々息苦しさを感じる俺。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!