ただいま恋人休業中!

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「いつも遠くから応援してくれる、健気なところが好き。……そう話してたらしいな、他の奴らに。何が健気だよ、あいつの方がよっぽど月子(つきこ)より腹黒ャラだぜ。清純派気取ってるけど、本当は金目当てだって噂になってるし、俺も間違ってないと思う。ロッカー事件のことはお前だって覚えてるだろ?お前は必死で美咲を庇ってたけど、あの時アリバイがなかったのはあいつだけじゃないか。実際、美咲は親父の借金があるからな、みんなの部費をせしめる理由はあるってなわけだ」 「呆れた、それが理由かよ智也。健気な女の子を可愛いって思うくらい、男なら当然だろ。恋愛感情がどうだなんて一言も言ってない。それに、美咲の親父の借金は億単位なんだぞ?たかが数万程度の部費せしめて何になるってんだ、矛盾してるよ」 「億単位だからこそ、ちびちびあっちこっちから盗んで来るしかないんだろうが」 「そんな証拠もないくせに人を犯罪者呼ばわりか。ああ、そうか。月子と美咲がライバル関係にあるから、美咲を貶めて月子を持ち上げようってわけだな?汚いにもほどがあるだろ」 「違う」 「何も違わねえ」 「違うってば違う!」 「どこが違うってんだ!ていうか、いつまで人の胸倉掴んでんだよ離しやがれこの馬鹿力!」  智也の腕を掴んで、強引にシャツから引きはがす。ああもう、買ったばかりのお気に入り、胸元が思いきり伸びてしまったじゃないか。後で弁償させてやろうか、と思う。  後で、なんて。そんなのはもう、自分達にあるのかどうかはわからないけれど。 「……よーくわかった」  俺はシャツを直しながら、智也に告げた。 「お前は堂々と月子みたいなクソ女に浮気をしておきながら、俺に謝罪する気もない。でもってお前も、俺が美咲に浮気してると思ってんだろ。ならいいじゃねえか、もう。正直疲れたわ。やっぱ、男同士で付き合うとか無理があったってことだよな、俺らそれまで女としか付き合ったことなかったし、勘違いってやつだったんだよ結局」  怒りと、同じだけの悲しみが胸からこみあげて、ぺらぺらと言葉が口をついて出る。こいつなら、正式な結婚ができなかったとしても、一般的な“家族”を作れなくても良いと思っていた。一生一緒に一つの屋根の下で暮らして、友達の延長線上にあるような気軽で安心感のある関係のまま、お互いジジイになるまで幸せに生きていけるとばかり思っていたのに。  一体どこで、何を間違えてしまったのか。何を自分は、勘違いしていたのか。 「オヤスミナサイ、だな」  俯いた智也が、一瞬露骨に傷ついた顔をしたものだから。別れよう、という言葉は直前で消えた。代わりに告げたのは、ほんの少し未来を先延ばしにするだけの台詞だ。 「当面、恋人は休業だ。つか、友達も休業か?暫く俺に近づくな、触るな、声かけんな。俺からもお前に近づかないから安心しろよ。当たり前だけどキスも手繋ぐのもセックスもぜーんぶナシ、お前のためにメシも作らねえ!わかったらとっとと自分のさっみーアパートに帰れよこの馬鹿!」
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