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「A monitor is coming!」
荒原を駈けながら、イギリス人がこちらに叫んだ。鬼気迫った表情で、体は血だらけ傷だらけだった。彼は片足を引きずりながら一人乗のタイムマシンに飛び乗り、どこかの時代へ行ってしまった。
ここは大昔のオーストラリアだ。陽の光に照らされて、巨大な有袋類がのっそりと歩いてゆくのが見える。時間旅行に来ていた二人の日本人は、口をぽかんと開けて突っ立っていた。
「……今あの人なんて言ってた? 翻訳装置、起動させてなかったんだけど」
一人が日本語で言った。もう一人が「えー」と眉尻を下げる。
「なんで起動させなかったんだ。俺は翻訳装置持ってないのに」
「だって、こんな辺鄙な時代で他の旅行客に会うとは思わなかったんだもん」
青空が広がる。二人は腕を組んで考えた。
「……モニターって言ってたよな。『モニターが来る』って」
「モニターって、画面のことだよね?」
脚の生えたテレビ画面がとことこ歩いてくる姿でも想像したのだろうか。彼はかぶりを振って、友人に言った。
「調べてみようよ。『画面』以外の意味があるのかもしれないよ」
「よし、調べよう」
手持の端末を取り出し、文字を打ち込む。
「モニターって最後『er』だっけ」
「違う。『or』だよ」
『Monitor』
端末が流暢な発音で読み上げた。
「あ、やっぱり幾つか意味があるみたいだな。……『学級委員』?」
もう一人が画面を覗き込む。
「あの人、学級委員から逃げてたの?」
「四万年前のオーストラリアに学級委員がいるかよ」
「あ、これなら意味が通じるよ。『監視装置』だって」
「なんの監視装置だろう」
燦々と輝く日の下で、二人は腕を組んで考えた。背後に迫る巨大な生き物に、二人は気付かなかった。
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