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平凡なオレがこっくりさんをしてみた
「なぁ、宮城ぃ、こっくりさんやろうぜ!」
「あ?」
しまった。地の声がでてしまった。やばい。
いつもアホな顔した前に座る高橋が振り返って、またアホなことを言ったせいだ。
高一のオレがどうして、こっくりさんなんてやらなきゃならないんだ。進研ゼ〇もすでに放り出して卒業している。
「こっくりさんだよ! やろやろ!」
「こ、こっくりさんなんて怖いだけじゃないか……」
取り直して、落ち着いた声でつぶやくオレ。事前準備をしていたのか、高橋はオレの机の上にバンと勢いよく、あいうえおの上に赤い鳥居がかかれた一枚の用紙をどこからか取り出した。
めっちゃ怖い。ナニソレ。本格的やん。呪ってる感すごっ! コイツ、古文で一生懸命勉強に勤しんでるなって思ってたけど、なにしてたんだ……。
ポカンと口を開けるオレに、高橋はやれやれと首を振って、皮肉な笑みを顔に浮かべた。
「はぁあ~、真面目ちゃんは駄目だな。ほら、いいからやろうぜ!」
「……っ」
目と鼻の先まで顔を近づけてくるので、後退るように椅子をひいた。するとどうだ、すっとオレと高橋の間にムスクの香りが漂った。
「いいね、僕もやろうかな」
顔を見上げてみると、校内一美形の蘇芳司が静謐な微笑みを口許に漂わせてオレを見ている。
はぁあぁあああああ? 蘇芳、おまえ、そんなキャラじゃないだろ。他校でも皇太子、プリンスというあだ名がついてるのに、高橋の冗談に付き合うなよ。
そして、なんで入ってくるの? そんなに仲良くないよね? 話すの三回目だよね? やめて、心臓爆発して飛び散る。ムスクなんてマスクの匂いすんじゃんっていつも誤字るんだけど。
「や、やめよう。こっくりさんなんて縁起わるいじゃん」
「えー、大丈夫だってぇ! すぐおわっからさ! な、蘇芳?」
「そうだよ、宮城もやろう? ね? 逃げないで?」
蘇芳に腕をしっかりと掴まれて、しぶしぶ腰を下ろす。嫌な予感しかしない。ナニコレ。表の下に数字まで羅列して書いてあるじゃん。つうか、こっくりさんなんて、なんで知ってんの? 一九九〇年の初頭のコロポロコミックとともに終わってんじゃないの?
「なに、びびってんの?」
「びびってない!」
「ふーん、じゃっ、やろうぜって……! やば! やばい! きょう姉ちゃんのお使い頼まれてたんだわ! ごめん、先帰るわ」
高橋は慌てて通学鞄を掴んで、脱兎のごとく教室を出て行った。残されたオレと蘇芳はきょとんとした視線を誰もいない教室の入り口に送る……。
窓からは黄昏の夕日が差し込んで、部活動に励むサッカー部員の声が耳に流れ込んでくる。
「じ、じゃあ、オレ、かえろうかな」
「せっかくだから、してみない? こっくりさん。ほら、十円玉もあるし」
蘇芳は長い指先で、光沢をもった硬貨を取り出す。さすが、蘇芳だ。準備がよい。
席についたまま、優美な笑顔を口元に漂わせた。蘇芳 司。両親ともに医者で、家は世田谷区にあり大変育ちがよい、坊ちゃま。
柔らかな栗毛、長い睫毛、アーモンドの形をした瞳に虹彩はうすいチャコールグレー。身長は雲をつくほど高く、運動神経も抜群。学力は全国上位をキープしている。オレの語彙辞典を最大に使った表現が拙い文章で大変申し訳ない。
とにかく、美形なんです。ええ、カッコいいんです。あ、オレですか? 猫山中学卒業の元ヤン。中学では徒党を組む副リーダーとして、殴っては殴られを繰り返していた。そんで平凡な生活に憧れて、父親であるカツオの転勤に付き合い、この都内一等地にどでんと構える広布私立高校に転校してきた次第である。
趣味は最近拾ったネコのふわふわな腹の下で寝ること、あとオナニーである。三白眼で、顔は並み。
「へ?」
「よし、はじめようか。指をのせてもらえる? えっと、なんだっけ? こっくりさん、こっくりさん、おいでくださいませ。あ、動いたね」
すすっと真ん中の鳥居に十円玉が動いた。どうやら召喚に成功したらしい。
「宮城の好きな子はだれですか?」
「はぁぁ!?」
驚いて指を離しそうになったが、蘇芳がすこし怒った顔でみてくる。
「宮城、離さないで」
「は、はい……」
びくつきながらも、じっと指先をみているとすっと硬貨が動いた。こえぇ。
「お、な、じ、く、ら、す。同じクラスだって」
こっくりさん天才なのか? オレが蘇芳に片想いしてるのバレちゃうじゃん。
「ね、こ、す、き」
「ふは、猫だって。かわいいね」
蘇芳が笑う。
は~、笑い方まで気品漂ってる。
甘い吐息なんて缶詰に閉じ込めて、蘇芳の吐息として永久保存したい生徒は多数存在している。歯も白くて綺麗な歯列が規則正しく並んで、デンタルケアも素晴らしい。
オレなんて定期健診で通っている隣町にある歯医者のジジイにいつも説教されて、「あ、歯を間違えた」とか言われる始末だ。それでも他の歯医者に変更するもの怖いので、我慢強く電車を乗り継いでわざわざ通っている。忍耐強いとほめて欲しい。
そんなことより、オレの内心は汗だくである。
指が重なっているのだ。細長い形のよい指が……。
猫好きの女子なんてたくさんいる。かく言う、オレも猫が好きだ。土手裏からずぶ濡れの牛のような雄猫を拾って、母のマユミに土下座して、いま家で飼っている。
「そ、それより、蘇芳の好きな人を聞こうよ……」
「え?」
「え、って、いつも教えてくれないじゃん。のらりくらりかわしてさ。ほら、こっくりさん、こっくりさん、蘇芳の好きな人教えてください」
「ば、な、な、す、き」
オットー! 急に難易度高めのヒントである。これは本当のバナナなのだろうか。それとも、昨夜使用したオレの愛用玩具なのか?
もしそうなら、こっくりさんにバナナ型のディルドで孔開発しているのがバレているってことになる。しかもおかずは蘇芳の体育祭のリレーアンカーバージョンナイスショット。クラスのグループラインのアルバムからダウンロードした逸品。いやいや、こっくりさんなんて迷信だ。都市伝説。いまはレイワだ。
「バナナ好きなこってたくさんいるけどね」
「もっとヒントを貰おう」
「やけに前向きだね。そんなに僕の好きな人気になるの?」
かちりと蘇芳と視線が絡み合う。
ええ。気になりますとも。そうです、貴方のすきな人が気になるお年頃なんですよ。
「さ、ん、か、く、た、て、た、て? 宮城、これなんだろうね? 三角たてたてって」
さんかくたてたてというキーワードに、オレはわなわなと震えた。
好きな絵師、アナアナ貴公子の同人誌のタイトルにそっくりだった。
こっくりさん、オレの性癖まで当てないで欲しい、お願い。きのう、がにまにサイトでエロ同人誌をポチたのがバレるじゃん。ペイペオ支払いだと二十パーセントオフクーポンなんてキャンペーンしてるから、合わせて二冊買っちゃったんだよな。
ちらりと王子のようなまつ毛を揺らしてこちらを上目遣いで見つめる蘇芳に気づいて、視線をそらした。
やめてくれ。罪悪感が半端ないから。そういうのは賢者タイムだけで十分だ。
このまま好きな同人作家までバレて、性癖こじらせてしまってるのを暴露されたら、この窓から飛び降りたい。明日は天国、いや地獄行きだ。あの世で、こっくりさんに文句を言ってもしょうがない。
「あ、暗号じゃないか?」
「暗号ね……」
「や、ん、き」
「え!?」
二人とも顔を合わせる。
ヤンキ? モンキー? 蘇芳、サルが好きなの?
まてまてまて。調子のるな、こっくりさんごときにのっちゃダメだ。オレはもうヤンキーではないし、真人間へと変わった。「猫中の野ざる」と呼ばれてもいたが、いまは違う。
もちろん喧嘩を売られるが、こっそり路地裏に連れ込んで、殴り倒している。が、それは事故だ。
ざわめく教室では心機一転、黒髪眼鏡の優等生を演じるが、勉強だけは平均並みというなんともイビツなキャラ設定をしている。
「蘇芳、ヤンキーの女の子すきなんだ……」
「あ、いや、その、僕が好きなのは……」
「無理に言わなくていいよ。そうだ、蘇芳。そろそろこっくりさん、終わろう。日が暮れてきた」
そうだね……と苦虫を嚙み潰したような顔で蘇芳は頷いた。二人で「こっくりさん、こっくりさん、帰っていいですよ」と伝える。
「いいえ」へ硬貨がすっと動いて、ひゅっと息をのんでしまう。
「帰らない?」
いやいや、こっくりぃ、帰れ。帰ってくれ。
オレははやく家路について、ようつべの再配信のハムカーみなきゃダメなんだから、消えてくれ。
「……帰らないって困るね」
「もしかして蘇芳、勝手に動かしてる? それならほっといて、このまま帰ろう」
固い笑いを浮かべて、ちらりと蘇芳を見遣る。指を重ねたままの蘇芳は俯いてなにを考えているのか読めない顔をしていた。
「こっくりさん、こっくりさん、帰ってください」
「き、す、し、て」
?
ナニイッテンダ、コックリ。キスしてって誰にだよ。
「キス、する?」
「へ?」
むにゅ。顔を見上げた途端、蘇芳の柔らかな唇がふにっとあたる。
「も、う、1、か、い」
むちゅ。
え?
二度見するオレ。
え?
蘇芳はブレザーのネクタイを緩めて、空いた指先で前髪をかき揚げていた。額にはうっすらと汗を掻いていてなんとも熱そうだ。いや、エロそうだ。
「か、風邪ひいたの?」
「ごめん、熱くて……」
アツイ?
なんですか、その日本語は。
「大丈夫か?」
「うん、もう一度しない?」
シナイ? ナニヲ?
サッカーでしょうか。いや、もう後片付けしているのか、校庭誰もいねぇ。勉強か? そうか、勉強なのか?
「す、数学なら付き合うけど……」
「違うよ」
「座学? じつ……」
実技ぃ……と言いかけて、奪われるように唇を重ねられた。しかも顎クイである。長い指先でオレの顔面を上向きにさせ、舌を深くいれてまさぐり、涎が溢れて垂れてしまう。
グッバイ、オレのファーストキス。そしてめちゃくちゃ上手いな。
「……っ、んん、す、すおう?」
蘇芳のアーモンドチョコのような瞳は熱に浮かされたようにぼんやりと映るオレを眺めていると、手慣れた手つきで眼鏡を外された。
「んッ……ん、みや」
チュッチュッ……、と机を挟んで、首筋にも柔らかなキスを落とされる。じんわりとした気持ちよさが伝わり、オレは棒のように動けない。もちろん、指は重なったままだ。
メッチャエロイんですが……。グッジョブ、コックリ。
「す、すおう?」
「なんか、勝手に……、ごめん」
あ、汗が頬に垂れてる。
はっとしてオレは叫ぶように呟いた。
「こっくりさん、こっくりさん、帰ってください!」
思いっきり叫ぶと、「はい」とすすっと銅貨が移動した。
「か、帰ったね」
「うん……」
「と、とにかく、保健室行く?」
「うん、そうだね、そうする……」
気だるそうに蘇芳は立ち上がると、ふらふらと鞄を手に取ろうとする。あれだ、熱に浮かされたんだ。保健室で横になって様子みて帰ろう。
「あ、オレが持つ」
「ありがとう、優しいね」
◇◇
それが先ほどのお話である。
こっくりさんも無事昇天し、何事もなく終わった。
いま? いまなにしてるかって?
「あ、あ゛、あーー、だめ、蘇芳、イッテル、イッテル!」
ぴゅるると白濁の精液を放って、痙攣しながら失神しそうになってる。
保健室に足を踏み入れた途端、鍵をかける音がして振り返ると蘇芳が悲しそうな目で見てきたのだ。
『こっくりさんが僕に憑いているみたいだ……』と言って、そのまま入口脇のベッドへダイブしたわけである。
「ん、ごめん、まだこっくりさんが出ていかない」
耳朶をはむはむと甘噛みされて、さらにビクビクと奥が痙攣してしまう。だいしゅきホールドでがっちりと蘇芳の引き締まった腰に足を巻きつけて、打ちつけられる悦びに浸ってる。
ぷっくりと腫れるまで吸われた乳首は先まで膨らんで、赤くなっている。ちろちろと舌をたてながら舐められて、かすれた声が止まらない。
ヤバイ、脳みそとける。気持ちいい。オレ、開発済みだけあって、すんなり入ってる。いままでの特訓の成果がここで現れてる。ありがとうアナ。
「あ゛、ぁ、あ゛、ずおう、だ、め゛……」
「意外と腹筋もあるんだね、かわいい」
割れた腹を優しく撫でられるが、キスは止まることなく貪られ、深い悦楽が波のように押し寄せてくる。ぱちゅばちゅとした濡れた体液と鈍い痛みが混ざって、必死に蘇芳にしがみついてしまう。
顔面が涙と涎にまみれて、悲惨なオレ。汗を掻いて、憂い色を漂わせて打ちつけてくる蘇芳。
ナニコレ? 除霊ってこと? エロいことしてお祓いしてるの?
「ひぁ、あ゛ぁ、ん……」
「かわいい、宮城。ごめんね。もう少し、こっくりさんを帰れるように手伝ってね?」
「こんな、望んで、なぁ、んっん゛」
「でも、柔らかくて、締めつけてるよ」
下半身に快感が走り、蘇芳にしつこく首筋を吸っては舐められる。
「実は猫を拾ってるところを見かけたんだ。僕が家で飼おうとしたら、宮城が抱いて帰ってた」
「う、うん、あ、ああーー」
「宮城のことが気になって、知り合いのツテを辿って猫山中学のアルバムを送ってもらった」
……誰だよ、その知り合い。人のプライベート事情をペラペラと漏らすなよ。
「あっ、あっ、っ、つ、つまり……?」
「つまり、好きだ」
ぶちゅっと接合を深められて、蘇芳とオレは口づけを交わした。
その後、おぶられて帰れたが、オレがヤンキーなことがバレていた。「バナナ好きなの?」と、清々しい声で訊かれたので、台湾産のモンキーバナナが一番好きなんだ、と自分のドスケベなところは隠しておいた。
完
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