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最終話 宴
俺、ネネコ、メイドのサキ、レオナを始めとした孤児たち、舎弟のチンピラども。
みんなで宴を楽しもうとしている。
イチャモンをつけてきた領主は縛られて転がっている。
俺たちを阻むものはもう何もない。
――と思ったのだが、何やら新たな来客があった。
「あのぉ……。これは……」
「おお! 誰かと思えば、エミリーじゃないか!」
彼女は行商一家の娘、エミリーだ。
隣には両親もいる。
彼女たち一家は盗賊に襲われたのを機に行商を引退し、この街を拠点に働いて過ごしている。
「やっぱりリキヤさんでしたか! 領主邸を占拠って、いったいどういうことですか!?」
「いや、占拠なんてしていないぞ? あくまで俺たちは、宴を楽しもうとしているだけだ」
「……領主様を縄で拘束しているのが見えますが」
「邪魔だから縛っただけだ。特に深い意味はない。そんなどうでもいいことは置いておくとして、エミリーも宴に参加しないか?」
「どうでもよくないです! ――と言いたいところですが、リキヤさんにとっては些末なことなのでしょうね……」
エミリーはどこか諦めた様子で呟く。
そして、言葉を続ける。
「では、参加させていただきます。実は、お酒を用意していまして」
「おおっ! 気が利くじゃないか! ではさっそく――」
ずいっ。
エミリーたち一家が荷車で運んできた酒樽に手を伸ばそうとした俺の前に、また別の人物が立ちはだかった。
「ん? お前は……」
「リキヤさん! お久しぶりです!!」
両手を広げて喜んでいるのは、よく知っている少女だった。
「本当に久しぶりだな、フィーナ。元気そうで何よりだ」
「はい、私は健康だけが取り柄ですから!」
彼女こそ、俺がこの世界に来て初めて交わった女性だ。
村では家族ぐるみで世話になった。
だが、最強を目指す俺は、いつまでも山村に滞在するわけにもいかない。
後ろ髪を引かれる思いで村に置いてきたのだ。
あれから数ヶ月が経つ。
その間に、彼女の体つきはだいぶ変わったと思う。
太った?
いや、これは――
「俺の子を孕んだのか?」
「はい! 私とリキヤさんの間にできた子どもですよ!!」
そうか。
俺の子か。
地球でもたくさんの女を抱いてきたが、避妊はちゃんとしてきた。
だが、あの村ではそんな気の利いた物が存在しなかったので、仕方がない。
俺の遺伝子を持った子どもが生まれると思うと、感慨深いものがある。
「責任は取らせてもらうぞ」
「え?」
俺は彼女を抱きしめて唇を奪った。
「はぁ……はぁ……。リ、リキヤさん……」
「村からここまで大変だっただろう? これからはちゃんと面倒を見てやるからな」
「いえ。お言葉はありがたいですが、最強を目指すリキヤさんの邪魔をするつもりはありません」
「だが……」
「今回街まで来たのは、出産の前にどうしても一目、リキヤさんに会いたかったんです。リキヤさんのおかげで幸せになれましたから、その礼を言いたくて。村の人たちも感謝していますよ」
「そうか。そう言ってもらえると、いろいろとやってきた甲斐があるというものだ」
俺はフィーナの村にそれなりの貢献をしてきたと思う。
近くに巣食っていた盗賊団を撃破し、ビッグボアやミドルボアを狩り、今後に備えて村の周囲に堀と塀を造ったりもした。
薪割りや畑仕事なんかもしたな。
懐かしい。
「しかし、俺に会うためだけにこの街まで来たのか? 身重の身体で来るのはあまり良くないだろう」
「大丈夫です。リキヤさんに指導してもらったおかげで、体の調子がいいんですよ。ほら、道中でコイツに襲われたんですが、返り討ちにしてやりました」
フィーナが指さしたのは、エミリーたちとはまた違う荷車だ。
その上には、大きなイノシシ型の魔物が横たわっている。
「これは……ミドルボアじゃないか。よく倒せたな」
「はい! リキヤさんの指導のおかげです! ちょうど宴会を開かれているようですし、皆さんに差し上げます。血抜きは済ませてありますので!」
「ありがとう。――野郎ども、聞いたな? 酒と肉が追加された! 存分に楽しむぞ!!」
「「「うおおぉー!!!」」」
舎弟どもが雄叫びを上げる。
元々十分な量の酒や肉を買っていた。
そこへさらにエミリーから酒が、フィーナから肉が提供されたことになる。
これだけあれば足りなくなるなんてことはあり得ない。
「ふふ……。リキヤさんの子ども、きっと立派に育ててみせますね」
「フィーナさんに先を越されました……。ですが、リキヤさんの第二子はこのエミリーが必ず産ませてもらいます!」
フィーナとエミリーがそんなことを言う。
彼女たちは村に滞在していた時から、多少の面識はある。
エミリーは盗賊に襲われた直後で意気消沈していたので、仲良しこよしの友人というわけでもないようだが。
「わたしたちだって、リキヤ様のご期待に応えられるように鍛錬をがんばります……!」
「負けません! ご主人様の正式な一番弟子はこのアタシなのですから!!」
レオナに対して、ネネコが対抗心を燃やしている。
俺はいろいろな人に対して、戦闘の指導を行なってきた。
ただ、通りすがりのワンポイントアドバイスレベルのものも多い。
長い期間付きっきりで指導してきたという意味では、ネネコが一番弟子というのもあながち間違ってはいない。
「リキヤ殿はとんでもない女たらしだったようですね……」
メイドのサキは一歩引いたところで呆れた様子を見せている。
「何を他人事みたいな顔をしているんだ?」
「へ?」
「お前も俺の女になるんだろ?」
「そ、それは……」
俺は恥ずかしがるサキの頭を抱き寄せ、唇を奪った。
「んっ……。リキヤ殿ぉ……」
彼女は舌を出して俺を求める。
いい女!
美味い酒!
たくさんの肉!
宴としては、言うことなしだ。
明日からも最強を目指して頑張ろう。
ちなみに――。
この後、縛り上げられていた領主は何とか脱出する。
激怒した彼は俺に兵を向けてくるが、俺はあっさりと撃破。
敵兵のことごとくを舎弟として迎え入れていく。
さらには領主の娘を娶り、俺は新領主として君臨する。
やがて俺の指導により超武闘派集団と化した領軍や一般民衆を率いて大陸の覇者となるのだが、それはもう少し後の話だ。
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