96話 レオナ

1/1
前へ
/100ページ
次へ

96話 レオナ

「うう……。嬢ちゃんに殴られた腹が痛ぇ……」 「俺は背中だ……。勢いよく投げ飛ばされちまったからな……」  俺の舎弟であるチンピラたちがそう言う。  状況が落ち着いたので、こいつらを介抱してやっているところだ。 「その程度で泣き言を言うな。ネネコのような少女にやられて悔しいと思わんのか?」 「いや、そりゃあ思いますけどよぉ……。いくらなんでも、その子は人間離れしてませんかぃ?」 「俺らだって、さすがに正規軍ほどじゃないが、それなりに強いつもりだったのに」 「あんな子供相手に負けるとは……。情けねぇ話だよな」  俺の言葉に、チンピラたちはしょんぼりと肩を落とす。  まぁ、相手が悪かったな。 「お前たち、自分の力不足を恥じろ。ただ、お前たちには伸びしろがたくさん残されている。今後もっと強くなれるはずだ」 「そうですかい?」 「おうとも。安心してついてこい。俺が保証する」 「「へい!!」」  俺が太鼓判を押してやれば、彼らは元気よく返事をする。  この様子なら、もう大丈夫そうだな。 「よし。なら、みんなで帰って宴をするぞ。ネネコも来るよな?」 「はいっ! ご馳走になります!」  彼女は、俺に向かって元気にお辞儀をした。  と、俺たちがそんなやり取りをしているときだった。 「「「…………」」」  物陰から、複数の視線を感じた。  数は1つ2つのレベルではない。  10以上はいそうな感じだ。 「そこに隠れている奴ら。出て来い」 「「「――――っ!!!」」」  俺の声に反応して、物陰の奴らが息を呑む。  そして、勢いよく逃げ出した。 (ふむ? 襲ってくるのではなく、逃げるか。足運びも素人のそれだな。放置していても害はないだろうが――)  ダンッ!  俺は勢いよく地面を蹴りつけ、大きく跳躍する。  そして、逃げていく奴らの前に回り込んだ。 「うわぁっ!?」 「ひいっ!」  突然目の前に現れた俺に、そいつらは驚愕する。 「ご、ごめんなさい!!」 「すいませんでした~!」  そいつらは即座に頭を下げて謝罪してきた。  うん?  こいつらはどこかで見たことがあるような気が……。  俺はジロリと彼らを睨みつける。  すると、その全員が体を小さくさせた。 「も、申し訳ありません。たくさん食べ物を買い込んでいる人がいると聞いて、つい見てしまったのです……」 「ええと、確かお前は……レオナ、だったな?」 「は、はい。覚えていてくださり、ありがとうございます」  隠れていた集団は、孤児の少年少女たちだった。  俺はかつて、彼女たちに焼き鳥を奢ってやったことがある。  その後も何度か彼女たちのもとを訪れ、食料を渡してやると同時に、格闘の鍛錬も行った。  筋は悪くないのだが、なにせまだまだ子どもたちだ。  リーダー格のレオナでさえ、まだ12歳前後。  俺のライバルに成長する者が出るまで、長い目で見るつもりだった。 「まぁ、俺たちに害をなそうというのでなければ構わないさ」 「と、当然です。私たちが元気に暮らせているのは、リキヤ様のおかげですから」  レオナはそう言いつつも、チンピラたちが持っている食料から視線をそらせていない。  ふぅむ。  定期的に食料は渡していたのだが、不十分だったか。 「で、では私たちはこれで――」 「まぁ待て。せっかくだし、お前たちも宴に参加するといい」  俺はレオナたちに声をかける。 「へ? い、いいのですか?」  レオナは目を丸くして、そう聞き返してきたのだった。
/100ページ

最初のコメントを投稿しよう!

253人が本棚に入れています
本棚に追加