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98話 ここをどこだと思っている!?
「さて、ではさっそく肉を焼いていこう。サキも手伝ってくれるか?」
「…………」
「おーい、サキ?」
「……はっ。す、すみません。ちょっと意識を失っていました」
「おいおい。しっかりしてくれ」
俺は苦笑する。
「まさか、ここまでとは……。本当にリキヤ殿には驚かされっぱなしですよ……」
「そう褒めるなよ」
「褒めてませんよ……。領主様にどう説明すれば……」
「心配無用だ。何か文句を言ってきたら、俺がぶっ飛ばしてやるよ。――ん? ほら、言っている間に……」
「え?」
サキが恐る恐るといった様子で後ろを振り向く。
そこには、顔を真っ赤にした中年の男がいた。
あれが領主っぽいな。
「き、貴様らぁ! ここをどこだと思っている!?」
領主は怒りの形相を浮かべて叫ぶ。
「ここは、儂の敷地だぞぉおおっ!!」
……まぁ、そうなるだろうな
「はぁ……。また始まったぜ」
「領主様は短気だなぁ」
「だな。いいじゃねぇか別に。楽しければそれでいいだろ」
「違いない。酒もあるしな」
領主の大声を聞いて、チンピラたちが小声で会話している。
「貴様ら! 何をのんびりしている! この男を抹殺する指令はどうした!!」
領主は血走った目で俺の方を見る。
「おやおや、物騒なことを……。俺を殺すだって?」
「黙れ野蛮人めが!」
「野蛮人……? おいおい、俺ほどの文明人はそうそういないぜ?」
「問答無用! 貴様ら、さっさとコイツを殺せぇ!!」
領主がチンピラたちに命令する。
だが、チンピラたちは動かなかった。
「バーカ、誰がお前の命令なんざ聞くかよ」
「いつも安い給料でこき使いやがって」
「俺たちは、リキヤ親分に付いていくって決めてんだ」
「テメェの指図は受けねえよ!」
チンピラたちは全員俺の傍に移動していた。
そして、全員が戦闘態勢を取る。
「ち、チクショウが……! これだから下賤の輩共は嫌いなんだ……!」
領主は歯ぎしりする。
そんな彼に、ネネコは侮蔑の視線を向ける。
「目障りですね、アイツ。ご主人様の手を煩わせるまでもありません。アタシが殺して――ぷぎゅ!」
物騒なことを言い出すネネコの口を俺は塞いだ。
この街はそれなりに黒い部分があるし、貧富の差も激しい。
獣人のネネコが奴隷狩りに遭ってこの街で販売されていたし、孤児のレオナたちはその日食べるものにも困っていた。
しかも、客人として俺を領主邸に招いておいて、チンピラたちを差し向けて殺そうとまでしていた。
領主の罪はなかなかに重いだろう。
だが、何もこの場で殺すこともあるまい。
今日は楽しい宴の席なのだからな。
「領主は適当に縛り上げて、その辺に転がしておけ。――さぁ、宴を始めるぞ! まずは点火だ!!」
「は、はいっ! 火種を用意してきま――」
「それも不要だ。うおおおぉっ!」
「え?」
サキがまたもや呆けた声を漏らす。
これで何度目だ?
いい加減に慣れてほしいところだが。
「ふんっ!」
俺は木の棒を板に突き刺す。
そして高速で回転させた。
すると、ボウッっと音を立ててすぐに木が燃え上がった。
俺はその火種を、先ほど用意しておいた薪に投下した。
「よし、それでは肉を焼いていくぞ!」
「「うおおおっ!」」
「肉だ肉ぅ!!」
「早く焼けろー!!」
肉を前にして皆盛り上がっているようだ。
……というか、肉を見てテンションが上がるなんて子どもみたいだな。
まぁ、子どもの集まりみたいなものか。
「――ん?」
俺はふと、領主邸の門の方に視線を向ける。
誰かが来ているようだ。
夜に屋外でバーベキューをしているので、この辺りだけ明るい。
一般街の住民から見ても、『領主邸で何かが起きている』ことは丸わかりだろう。
ただの一般人が来たのなら、放っておいてもいい。
だが、この気配には覚えがある。
彼女たちは――
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