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1.プロローグ
これはまだ僕が幼い頃の記憶──。
「──こうしてアルファの王子様とオメガのお姫様は、いつまでもいつまでも幸せに暮らしましたとさ。めでたし〜、めでたし」
毎日寝る前、母と2人布団に包まっての絵本の読み聞かせが僕は大好きだった。朝から晩までうちの仕事で忙しくしている母との、唯一の至福の時間。でも……。
「ねえお母さん」
「どうした〜? 緒斗」
いつも読み終わる頃にはうとうとしているのに今日はぱっちり目が開いている僕を見て、不思議そうな顔をしている母に、僕はこう聞いた。
「あのさー、なんでさー、オメガの子が王子様のお話はないのー?」
母の顔はみるみる曇る。そして、無理矢理笑ったような顔で
「……どうしてだろうねぇ」
と応える。そんな様子に気づく訳もない幼い僕は
「ぼくだって、ぼくだって王子様みたいになれるのに……! ね!お母さん!」
と同意を求めた。
「……そうね、なれるといいわね」
そう言い、どこか遠くを眺める母は、悲しそうで。それでも僕を見つめ返して
「緒斗。そろそろ寝る時間だよ。さあ、どっちが早く寝られるかな〜?」
なんて笑う母は僕の宝物。
「ふふふっ、ぼく負けないもん!──」
──そんな母を見て、僕は決意したんだ。
母の笑顔をずっとずっと守れるような、強い人間になろうって。
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