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6.昼休憩
「さっきは色々と僕の質問に答えてくれてありがとう。わかりやすくて、とても参考になりました」
そう微笑みかけながら僕が深畝君に声をかけると、彼は一瞬目を見開き、すぐさま笑顔を作る。全てのパーツがその笑顔を引き立たせており、思わずその顔に見入ってしまう。
「いえいえ、こちらこそ天陽の会長さんとお話でき、嬉しいです。政策、参考にさせていただきますね。──そんなに私の顔を見つめて、どうかしましたか?」
「──あっ、いえ! 気にしないでください!」
ちょっと長すぎたのか、心配されてしまった。話題を変えなければ。
「ところで、今日のお弁当、美味しそうですね〜! デザートにシュークリームもあるんですか。いやはや豪華ですね。うちの会計担当が予算の規模に驚いてましたよ! さすが九陽ですね、って」
「ははっ、そうですか。こちらとしてもこの行事には力を入れていますから、そう言ってもらえて何よりですよ。ところでシュークリーム、お好きなんですか?」
あれ? 僕、そんな顔に出ていたのか?
「いや、貴方の思っていることは何となく分かりますよ、私には」
何も言ってないのに考えを当てられて、僕は驚く。顔が歌ってでもいるのだろうか……?
「すごいですね。こんなに見事に当てられてしまうだなんて、びっくりです」
と笑顔で返しながら、僕らはお弁当とシュークリームを手に、席につく。
「では飲み物をお持ちしましょうか。何がいいですか?」
と率先して聞いてくるあたりが、傲慢な性格の人も多いαらしくなく、好感がもてる。やはりさっきの香水の件は優しさの方であってたのか、と思いながら、僕はアイスコーヒーを頼んだ。そして、「はい、どうぞ」と渡してくれる手が不意に重なった瞬間、再び静電気が走り、僕は苦笑いするしかなく──
──しかし深畝は僕を愛おしむような、そんな笑みを浮かべていたのだった。
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