6.昼休憩

1/4
前へ
/25ページ
次へ

6.昼休憩

 「さっきは色々と僕の質問に答えてくれてありがとう。わかりやすくて、とても参考になりました」 そう微笑みかけながら僕が深畝君に声をかけると、彼は一瞬目を見開き、すぐさま笑顔を作る。全てのパーツがその笑顔を引き立たせており、思わずその顔に見入ってしまう。 「いえいえ、こちらこそ天陽の会長さんとお話でき、嬉しいです。政策、参考にさせていただきますね。──そんなに私の顔を見つめて、どうかしましたか?」 「──あっ、いえ! 気にしないでください!」 ちょっと長すぎたのか、心配されてしまった。話題を変えなければ。 「ところで、今日のお弁当、美味しそうですね〜! デザートにシュークリームもあるんですか。いやはや豪華ですね。うちの会計担当が予算の規模に驚いてましたよ! さすが九陽ですね、って」 「ははっ、そうですか。こちらとしてもこの行事には力を入れていますから、そう言ってもらえて何よりですよ。ところでシュークリーム、お好きなんですか?」 あれ? 僕、そんな顔に出ていたのか? 「いや、貴方の思っていることは何となく分かりますよ、私には」 何も言ってないのに考えを当てられて、僕は驚く。顔が歌ってでもいるのだろうか……? 「すごいですね。こんなに見事に当てられてしまうだなんて、びっくりです」 と笑顔で返しながら、僕らはお弁当とシュークリームを手に、席につく。 「では飲み物をお持ちしましょうか。何がいいですか?」 と率先して聞いてくるあたりが、傲慢な性格の人も多いαらしくなく、好感がもてる。やはりさっきの香水の件は優しさの方であってたのか、と思いながら、僕はアイスコーヒーを頼んだ。そして、「はい、どうぞ」と渡してくれる手が不意に重なった瞬間、再び静電気が走り、僕は苦笑いするしかなく── ──しかし深畝は僕を愛おしむような、そんな笑みを浮かべていたのだった。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

61人が本棚に入れています
本棚に追加