6.昼休憩

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 「運命の番」というものを知っているだろうか? その存在の真偽は学者の間でも分かれていて、都市伝説とも言われている。出会った時からお互いが惹かれあう、特別な関係──。番になる前からとりわけ結びつきが強く、そんなαに会っただけでΩはヒートを起こしてしまうとかしまわないとか。そんなもの、ただの御伽噺なんじゃないかって世間でも言われている。だから、先輩からこう聞かされて、東谷茉莉は耳を疑った。 「多分、運命の番です、あの2人」  相生先輩が私の耳元でそう囁き、私はただただ戸惑った。え? ほんとに本気でそんなこと言ってるの? と。普段先輩はこんな冗談を飛ばすような人でなはいので、余計にそう思う。 「なんでですか?」と私も声をひそめて言う。昼ご飯にデザートまで食べた私がその話を聞いたのは、先輩に呼び出されて来た、教室外の廊下だった。 「それは──、女アルファの勘、ですかね?」 てぺぺろ、とでも言うかのように先輩は舌を少し出す。普段、先輩はこんな表情豊かな方ではない。どちらかと言うとクールビューティの部類で、生徒会に入ってからやっと、先輩の微笑みを拝める方になったくらいなのだ。──こんなお茶目な感じだとは、少し意外だ。 「で、先輩は私に一体何を伝えたいんですか?」 先輩は会長のプライベートを垂れ流すような人では決してない。だから、そこには何か理由があるはずだ。 「話が早くて助かります。端的に言うと、会長──木崎君を一緒に見守ってほしいのです」 そう言われて少し納得がいく。たしかに会長は── 「──あの人、ちょっと鈍感なところがありますから、こういう恋愛ごとに関しては」 そうなのだ。薄々勘づいてはいたが、会長からはすこしも色気づいた話が出てこないのだ。相生先輩でさえ、番がいるとかいないとかいう話を聞くのに、だ。 「ということで、詳しくは会が終わった後に。斎江君たちにも話がついていますので」 そう言って、先輩は先に中へと戻っていった。  私は、今までファンタジーだと思ってた世界が現実にあるのだと、胸がドキドキしっぱなしで、その場に立ちすくんでいた。
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