2.出発進行!

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 和歌が心配しているのはそれよりも(大体その名に恥じないよう、その辺りの教育は行き届いている方だ)、Ωである緒斗がαにうなじを咬まれてしまわないか、ということだった。 αとΩに存在する、特別な契約関係──それが『(つがい)』だ。Ωはひとたびαにうなじを咬まれると番となり、番った相手にしかフェロモンは効かなくなるが、その契約は一生続く。そしてαはいくらでも番を作ることができるが、Ωはそうではない。αに捨てられたら吐き切れない情欲に一生苦しめられるのだ。 天陽は県下1、2を争うと言われる進学校ではあるが、それは主にβから見た話なのだ。九陽は『名門校』。つまりは御坊ちゃま御嬢様の優秀なαの寄せ集めのような所。元々β達の眼中にないだけで、九陽は言わずと知れた、名実ともにトップに君臨する学校なのである。 天陽(うち)自体はβばかりでαやΩの生徒なんて各学年両手で数えられる程しかいないような一般的な学校である。また生徒会メンバーは和歌や脩はα、1年2人はβなのだが、和歌には既に番がいて緒斗のフェロモンは感じるが誘惑はされないし、脩に至っては。まあまず天陽で緒斗がどうこうなる心配はそうそうないわけだが、九陽には番のいないαなんてのはごろごろいる。いくら咬まれないように首輪をしていると言っても、生徒会の中で母のような存在を担っている和歌は気が気で仕方なかった。なんとしてでも今回の交流会には出させまいとあの手この手で緒斗が訪問するのをやめさせようとしたが、結局どんな作戦を立てて挑んでも緒斗には「大丈夫だよ。それに生徒会長の僕不在で訪問したって、きっと相手にされずに終わるだけだよ。僕が行かなくちゃ」と提案を一蹴されてしまうのがオチだった。ああ見えてかなり責任感が強いのだ。緒斗は。
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