なるべく早急に穏便に出ていってほしい

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「貴方の方が年上だし、別に呼び捨てでもなんでもいいわよ」 「じゃあモニカちゃんとか?」 「やめて」 「ふふふ、じゃあモニカさんがいいなあ。……そうかあ、モニカさんかあ」  彼は私の個人情報を噛み締めるように頷く。 「さあ、次は貴方よ、リチャード」 「へ? 教えたじゃん、リチャードって」 「その先よ。リチャードだけならこの世に400万人くらいいるでしょーが」 「ええとね……」  その時馬車が国境の門へと到着する。馬車の揺れにぐらりと座席から落ちそうになる私を、リチャードは逞しい腕で抱き留めてくれた。 「ありがとう」 「へへ、どーも」  リチャードは人懐こく歯を見せて笑う。  そのとき、外で甲冑姿の軍人がビシ!と金属音を立てて整列するのが見えた。 「お帰りなさいませ、皇弟リチャード殿下!!!!!!」 「え」  私は思わず彼ーーリチャードの顔をみる。彼はばつが悪そうに、頬を掻いて笑っていた。 「兄貴夫婦って」 「うん、皇帝夫妻」 「待って。ねえ、待って」  リチャード・イル・ベルクトリアス皇弟殿下。  それが、彼の本当の名前だった。
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